精霊の声
その日の夜、私は夢を見ていた──夢の中の私は、何故か森の中にいた。木漏れ日が射す中、風がざわめき、木々のささやきが聞こえる。
その声は、突然聞こえてきた。
「────い」
「────ない」
「──危ない!!」
切羽詰まったような声は、急に大きくなり、私は目を覚ました。
「……何?」
部屋の明かりをつけると、私はベッドの中から辺りを見回し、何も起きてない事を確認して、もう一度ベッドの中へ潜り込んだ。目を閉じると、あっという間に眠りに落ちて、変な夢のことは、翌朝になるとすっかり忘れてしまっていたのである。
*****
翌日の午前中。王妃教育が終わると、『ご機嫌伺い』と称して、エリオット様の執務室へ来ていた。
「エリオット様、お疲れ様でございます。ヘンリー様の件について、何か進展はございましたか?」
部屋の中へ入ると、エリオット様は仕事中にもかかわらず、私をソファーへ案内してくれた。一緒に腰かけると、隣で私の手を握っていた。
「アイリス──やはり遺体は、兄上ではなかったよ」
「そうでしたか。でも、それならヘンリー様は何処にいらっしゃるのでしょうか? 心配ですね」
「そうだね。色々あったが、兄上は兄上だからな。心配はしている」
「……」
エリオット様の口ぶりに、あまり兄弟の仲は良くないのだろうな──そう思った。
「それにしても、兄上は何処にいるのだろうね」
「家出とかでは、ないですよね?」
「兄上は、かなり病弱で──一人で生活するのが、かなり難しいと思うんだ。援助してくれる人が誰かいれば、話は別だが……」
「援助? 誰かが匿っているとか──もしかして、連れ去られた上での監禁とかでは、ありませんよね?!」
「いや。それは、さすがに無いと思う。警備もあり得ないくらい厳重だと聞いているし、無いと思うよ」
エリオット様は握っていた手をギュッと掴むと、こちらに向き直り、真剣な表情で言った。
「アイリス──婚約発表は3日後に決まった。よろしく頼む」
「承知いたしました」
私は驚きを隠せなかった──ゲームでは婚約パーティーで断罪されるストーリーが半数以上だった。誰かに断罪されたりする可能性は、もうないのだろうか?
「大丈夫だ。私がついている。命をかけて、何があっても、アイリスを守ると誓うよ」
そう言って、掴んでいた手を引いて、私を抱きしめた。抱きしめられて苦しい中、もがきながら私は言った。
「本当に命はかけないでくださいませ」
エリオット様は身体を離すと優しく微笑み、私の額にそっとキスをしたのだった。




