小さな女の子
「公表していないからね。第二王妃としてアーリヤ国から嫁いできた第三王女がいたのだが、出産の時に亡くなったと聞いている。その出産の時に生まれた女の子が確か3歳くらい年下で──城で何回か会ったんだが、いつの間にかいなくなっていたんだ」
「いつの間にか──ですか?」
「あまり覚えていないんだが……。病弱で一緒に遊ぶことも無かったそうなんだ。治療のためにアーリヤ国に移住して、そのまま亡くなったと──そう聞いている」
「そうでしたか。でも妹なら可愛かったでしょう?」
「ああ、可愛かったな。『にぃにぃ』と言って、会うといつも私の後ろを追いかけ回していた」
「もしかして、そのことが今回の件に関係していると──そう、お考えですか?」
「いや、それはさすがに……。考えすぎだろう」
「そうですわね。あの、エリオット様。なんと言ったらいいのか……」
「いや、その──気にしないでくれ、アイリス。ただの昔話だ」
私は目の前にある、驚愕の事実を伝える。
「小さな女の子が、こちらを見ています」
「アイリス?」
「見えませんか?」
「ああ、そこには壁しかない」
(なんということだろう。今世は見えないと思っていたのに)
「ええ。私にも、壁しか見えません」
エリオット様に続き、オーベル様も答えた。
「アイリス、その子は何か言ってるのか?」
「声は聞こえませんけど、『ありがとう』って、言っているみたいですね」
「他には?」
「どこかを指さしています。扉の方を指しているみたいですね……」
「その方角──もしかするとアーリヤ国を指しているのかもしれません」
オーベル様が、腕を組みながら思案顔で言っていた。
「何故だ?」
「いえ、何となく、そんな気がしただけでして……」
「他に、何かもっと分かることはありませんか?」
「ええと──消えてしまったみたいですね」
オーベル様に聞かれて、再び視線を壁に戻すと、小さな女の子は消えてしまっていた。
「私の声に答えてくれたのかな?」
エリオット様が、ひとり呟いていた。




