表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/82

偽りと本心

「エリオット様‥‥‥。王太子任命式の件、王妃様から伺いました。おめでとうございます」


「ありがとう。アイリスは、私が王太子になっても支えてくれるかな?」


「‥‥‥はい」


「本当に‥‥‥。正直な気持ちを話すと、私に王太子は向いてないと思ってるんだ。私に民を導くことなんて、出来ないような気がしている」


 エリオット様は、気落ちしているようだった‥‥‥。様々なことがあったせいかもしれない。


「‥‥‥エリオット様」


 私は俯いたエリオット様の手の上に、自分の手をそっと重ね合わせた。すると、エリオット様は私の手を握り返し、切なげな瞳でこちらを見つめ返した。


「アイリス、これからも側で支えてくれると約束して欲しい‥‥‥。君がいなければ、そのうち私は自分自身を見失うだろう」


「そんな‥‥‥」


 そんなことはないと思う‥‥‥。だけど、そんな風には言えなかった。


「私が言葉を尽くせば尽くすほど、君の心が離れていくような気がしてならないよ‥‥‥。どうしてそんな顔をするの?」


「そんな顔?」


「‥‥‥泣きそうでいて困っている様な、そんな顔だよ」


「私は‥‥‥」


「王妃にはなれません」と言うべきだろうか? 今、ここでハッキリと。そうしなければ──今ここで言わなければ、言えなくなってしまう‥‥‥。そんな気がした。


「私はエリオット様を、『支えたい』と思っています」


「それは‥‥‥」


「ですが、王妃として支えるべきなのか、今の私には分かりません」


 今まで受けてきた王妃教育の内容を、無駄にはできないだろう‥‥‥。でも、『エリオット様の隣に立つ』には、私はあまりにも未熟だ。オーベル様の言う通り、今の私自身の気持ちと、きちんと向き合わなければならないと思う。


「それは、他に好きな人がいるから一緒になれないとか、そういうことだったりする?」


 私は首を横に振り、エリオット様を見つめ返した。


「私には、エリオット様の王妃になる資格なんてありません。だって、私は悪役令嬢なんですもの」


 つい口走ってしまった言葉に、エリオット様が反応する。


「‥‥‥何だって?」


「‥‥‥悪役令嬢です」


「アクヤクレイジョウ?」


 突拍子のない言葉に、エリオット様は目を白黒させていた。


「ねえ、アイリス。もしかして、私に何か隠している事があるんじゃない?」


「隠している訳ではないのですが‥‥‥。今は言えないのです」


 『前世』なんて概念は、この世界にはない。いくら魔法が通用する世界でも、簡単には信じられないだろう。


「でも、オーベルは知っているんだよね?」


「?!」


「オーベルに話せて、私には話せない?」


「そう言う訳では‥‥‥。ただ、信じられない内容だと思います」


「話してごらん‥‥‥。私は、どんなアイリスでも構わない。受け入れる覚悟は、出来ているつもりだよ」


 そう言うと、エリオット様は両手を広げて微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エレンのキャラが良いですね!主人公とライバルになり得るタイプの女キャラって酷く描かれることが多い気がしますが、エレンはおそらくアイリス以上の勇気をもって自分の身を顧みずアイリスを庇ってるの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ