外聞
「いえ、いいのよ。変なことを聞いて悪かったわ」
「その事を、エリオット様はご存知で?」
「ゲームではエリオット様に断罪されることもあるのよ──言える訳ないわ」
「でも、それはゲームの中の話でしょう?」
「それは、そうなんだけど……」
エリオット様に、何の前触れもなく断罪されるなんて思っていない。けれど、心のどこかで信じきれないでいる自分がいた。
「エリオット殿下と一度、話し合われてみてはいかがですか?」
「──それが出来れば、苦労はしないわ」
オーベル様は溜め息をつくと、何処から取り出したのか、この間の通信機を手に持っていた。前回のからくり箱と少し大きさが違うので、別の魔術具なのかもしれない。
「二人で会うのは、あまり良くないと思われます」
「外聞が悪いってこと?」
「私は気にしませんが、エリオット様や他の者達は、良く思わないでしょう」
「そんな! まだまだ話したい事は、たくさんあるし、聞きたいことだってあるんだから……」
「分かっています。なので、これを……」
「これは?」
「この前、地下道で貸した通信機をバージョンアップしたものです。前世で言う『携帯電話』みたいなものですね。どの属性でも大丈夫ですので、魔力をほんの少し込めるだけで使えるようになっています」
「……」
「僕は、今でもみっちゃんのこと、大切に思っていますよ」
オーベル様は、屈んで目の高さを合わせると、優しく微笑んだ。
「?!」
「まあ、妹みたいで、前世も今世も放っておけないだけなんですけど」
「それは──何だかすみません」
オーベル様は、私の頭を撫でるような仕草をすると、手を差し出した。
「さあ、行きましょう。あまり長く話していると、サラが心配しますよ」
どうやら、エスコートしてくれるみたいだ。哲っちゃんにエスコートされているのかと思うと何だか気恥ずかしかったが、彼の手を取った。この世界で今までどんな生活を送ってきたのだろう──そう思ったが、そんなことは聞けなかった。
(またいつか、ゆっくり話せる日がくるといいな)
そう思ったが、そんな日は暫く来ないかもしれない。王族や貴族は、庶民とは違って面倒な事が多い立場なのだ。
私は服の下に隠した、からくり箱型通信機を服の上からそっと撫でると、部屋まで続く道のりをを、ゆっくりと歩いていった。




