婚約披露パーティーの延期
「あれこそが『呪』だった。小さな塔だったか? そこから出た『呪いの塊』のようだ。どうやら、あれを受けたのがライナスで、オーベルが呪いを解いてくれたが‥‥‥。周りの者が止めるのに苦労して、中には傷を負った者までいる。ライナスはオーベルが気絶させて、今は医務室で眠ってもらっているよ」
ライナス様が一体どうしてそんな目に‥‥‥。そう思ったが、答えは見つからなかった。
(それにしても、私の居場所はどうして分かったのかしら?)
「そんな事があった後でしたのに、エリオット様は、あの早さで駆けつけてくださったのですか?」
「それは‥‥‥。私がアイリスのことを普段から思っているから、何処にいても居場所が分かるのだよ」
「‥‥‥え?」
私がその言葉を理解出来ずに、エリオット様を見ると気まずそうに顔を背けていた。オーベル様は、さりげなく私のブレスレットを見ている。
「まさか、ブレスレットに仕掛けが?」
「あー、うん。その、心配だったのだよ‥‥‥。婚約者を心配するのは当然だろう??」
まさかとは思ったけど、ブレスレットにGPS機能みたいなモノがついてるのね。
「アイリス様‥‥‥。殿下はアイリス様を心配されたのです。ただでさえ、王族は他者より命が狙われやすいですから」
(いや、まだ王族じゃないし!! なる予定ないし!!)
私の心の叫びは、誰にも届くことはなく、話し合いは続けられていく。
*****
司教様は取り押さえられたあと、地下牢で尋問を受けていたが、自殺を謀ったため一時中断しているらしい。
「なんにせよ、兄上の捜索が最優先だ。指揮はオーベルに任せる」
「はい、お任せください」
オーベル様は騎士の礼をすると、部屋を出ていった。
「じゃあ、私もそろそろ部屋に戻ります」
「アイリス、婚約パーティーなんだが‥‥‥。来週に延期になった」
「来週?!」
「申し訳ないが‥‥‥」
「いえ、ヘンリー様が見つかるまでは、延期だと思っていましたの」
「そうしたいところなのだが、色々事情があって、やることになったんだよ‥‥‥。その何というか、王命でもあるし‥‥‥」
エリオット様は近くまで来て、床に片膝をつくと、上目遣いでこちらを真剣な眼差しで見つめていた。
「そ、そうだったのですね」
「そんな気分では無いかもしれないし、この先の状況によっては、どうなるか分からない‥‥‥。けれど、準備だけはしておいて欲しい。何かあれば、母上に相談してみても、いいかもしれない」
王妃様には、あの事件があってから会っていない。
「分かりましたわ。もし何かあれば、ご相談させていただきます」
「ああ、母上にも言っておく。城内では護衛をつけるから、くれぐれも注意して欲しい」
エリオット様は私の手の甲に口づけを落とすと、呼び鈴を鳴らした。
「殿下、お呼びでしょうか?」
「アイリスを部屋まで送ってくれ」
「かしこまりました」
私は淑女の礼をすると、護衛を引き連れて部屋へ戻ったのだった。