殿下の涙
しばらくして、私達は城へ戻った。城門前まで来ると、門の前にエリオット様が立っているのが見えた。
「アイリス!!」
私の事を呼んだエリオット様は、今にも泣きそうな顔をしていた。近くまで行くと、思いきり抱きしめられた。
「アイリス──アイリスがいる。良かった」
気がつくと、エリオット様は私の肩に顔を押しつけ、声を出さずに泣いていた。幼いころからエリオット様を知っているが、泣いているのは初めて見たかもしれない。少し動揺してしまい、慌ててしまったが──それも時間が経ってくると、むず痒い気持ちになっていた。
私はエリオット様のブロンドの髪に手を入れて髪を梳くと、背中に手を回し優しく撫でていた。するとエリオット様は少し落ち着いたのか、顔を上げると鼻水を啜って顔を赤らめていた。
哲っちゃんことオーベル様は、生暖かい目でこちらを見ていたが、私の視線に気がつくと、こちらに歩み寄って来て言った。
「私が護衛しますので、とりあえず部屋へ戻りましょう」
「……分かった」
手の甲で涙を拭きながら、エリオット様は前を向いていた。王族は人前で涙を見せてはいけない──そんな暗黙のルールがあったが、やはり人間だ。泣きたいときは泣いた方がいいだろう。
エリオット様が自分のために泣いてくれことが、私は嬉しかった。嬉しかったけど、そうなった気持ちに蓋をした。
(ダメダメ──好きになっても、虚しくなるだけ)
自分自身にそう言い聞かせて、私は二人の後をついて行ったのだった。
*****
部屋へ辿り着くと、エリオット様が「昼食を一緒に」と言ったので、三人で昼食を摂ることになった。
オーベル様は魔術師団の様子を一度見てくると言って、部屋を出ていった。
ソファーに腰かけると、二人とも無言だった。エリオット様は一度俯き、しばらくして顔を上げると、こちらを見てから言った。
「さっきは──その、格好悪いところを見せてしまってすまない」
「……」
「頼りない男だと、思ったかもしれないが……」
「全然!! 私は嬉しかったですわ。私の為に泣いてくださったこと──確かに王族の威厳は大切かもしれませんが、そのせいで人の心を失ってはいけないと思いますの。それに、泣いたエリオット様も素敵だと思いましたし……」
気づけば、私は早口で捲し立てる様に一気に喋っていた。
「アイリス、君は……」
ノック音が聞こえ、オーベル様が中へ入って来る。
「失礼致します。あ、お邪魔でしたか? 出直しましょうか?」
(哲っちゃん、なんてこと言うのよ)
「オーベル──」
「話をしていただけですわ。大丈夫です」
エリオット様が何か言いかけたみたいだったが、恥ずかしかった私は話を遮った。




