従兄妹同士
ドォン、ドォン───
ヒュー‥‥‥ドォン、ドォン
思ったより花火は上手く打ち上がり、空を綺麗に彩っていた。数は数えていなかったが、50発位の花火が打ち上がると、精神的にかなりの余裕が出てくる。
「オーベル様‥‥‥。すべて放出してしまってよろしいですか?」
「はい。無理をせずに、受けた分は全て放出してしまって下さい」
*****
すべて放出し終わると、傍らで微笑んでいるオーベル様がいた。その笑い方に既視感を覚えたが、それが何なのかは分からなかった。
「部屋から出てきてしまって、申し訳ありません」
オーベル様は苦笑すると、首を横に振った。
「まあ、そのお叱りは殿下から受けて下さい」
「はい‥‥‥。あの、オーベル様」
「どうなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません」
まさか、今のこの状況で『前世の記憶』があって『異世界転生』したんじゃないんですか? なんて聞ける訳がない。
オーベル様は私の手を取ると跪き、手の甲に自分の額を押し当てていた。
「みっちゃん‥‥‥」
顔を上げると、オーベル様は微笑んでいた。
「もしかして、哲っちゃん?」
「やっぱり、みっちゃんだ。思い出してくれた?」
「いや、思い出すも何も、その顔にその格好じゃ気づけないわよ」
「そうだね‥‥‥。でも、僕は分かったよ」
哲っちゃんこと、『堀田哲』は私の前世において従兄妹同士だった。幼い頃、一緒に遊んでもらった記憶がある。
「それに私が、前世の記憶を思い出したのって、つい最近だったし‥‥‥」
「僕も思い出したのは、1年くらい前だったよ‥‥‥。アイリス様が、みっちゃんじゃないかって思ったのは、魔術訓練所から出てきて、歩いていた時かな。もともと言動に少し違和感があったんだけど‥‥‥。歩き方で、すぐに気がついたよ」
「歩き方で?」
そんなに、変な歩き方をしていたのだろうか? そう思って顔を上げると、哲っちゃんが苦笑していた。
「前世での僕には変な特技があってね。歩き方って、指紋と同じで1人1人違ったりするんだけど、それを見分けるのが、僕は得意だったんだ」
大人になってからは疎遠だったせいか、哲っちゃんに、そんな特技があったなんて知らなかった。
「でも、どうして‥‥‥。哲ちゃんは、私と違って普通に生きたんじゃ?!」
「確かに‥‥‥。僕は普通に寿命を全うしたよ。この世界に生まれ変わって、前世の記憶があるのは何故なのか‥‥‥。それは、僕にも分からない」