爆裂火炎魔法の放出
エリオット様が私の元へ駆けつけて来る。
「アイリス、無事か?」
「はい。何とか……」
小刀を振り回していた司教様は、部屋の中へ入ってきた騎士達によって取り押さえられていた。
身体の中に取り込んだ魔術のせいで、体内にある熱が燻っているのを感じていた──放出できないのが辛い。
私の様子に気がついたオーベル様が、部下に指示を出しながら、こちらへ駆けて来る。
「お怪我は?」
「大丈夫だと言ってはいるが──アイリス、どうなんだ?」
「身体が熱くて、何だか持ちそうにありません。何処かに放出しないと……」
「『識る力』ですね。何があったんです?」
「司教様の攻撃を受けて、爆裂火炎魔法を吸収しました」
「え?」
「アイリス、爆裂火炎魔法を受けたのかい?」
「え、ええ……」
「何という事だ。そんな大魔法を、まだ成人もしていない女性に向けるとは……」
オーベル様が、額に手を当てて狼狽えていた。何だか嫌な予感がする。
「そんなに、珍しい魔法なのですか?」
「ああ──戦場でよく使われる魔法で悪用されないように秘匿されている。上手く使えば一度に1000人以上の兵士を、薙ぎ払える威力をもった魔術なんだ」
「1000人ですか?!」
「危険すぎるから戦場での使用を控えるよう、魔術師協会から通達が来ているくらいなんだよ」
「へ?!」
熱に侵されているせいか変な声が出た。
「オーベル、何とかならないのか? アイリスを助けてくれ。アイリスが助かるなら自分はどうなっても構わない」
「殿下、滅多なことは口になさらないでください。アイリス様は、私が命に代えてもお助けします」
そう言うと、オーベル様は私を抱えて走り出した。所謂、お姫様だっこだ。
「あ、あのオーベル様?」
「熱が放出できる場所へ向かいます」
そう言うと、部屋を出た場所から中庭へ飛び降りた。
「そ、空を飛んだ?!」
「ふっ――空を飛べたら良いですね。今のは風魔術で着地する前に、足元にある空気に圧力を加え、摩擦を起こし、逆向きに風を起こしたものですよ」
「へ、へえ。そうなんですの」
頭が全く回っていなくて、オーベル様が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
*****
少し歩いて森の入り口から、かなり離れた場所へ来ると、オーベル様が私を降ろし、身体を支えてくれた。
「さあ、アイリス様。ここからが正念場です。被害を最小限に押さえましょう」
「はい──お願いします」
私は真剣な表情で、オーベル様を見つめた。
「いつも通りに魔術を放ってください。ただし、空に」
「空?」
「そうですね。例えて言うならば、花火のように──ですかね」
(花火って、この世界には無いものよね? ひょっとして、ひょっとしなくても、もしかしてオーベル様は……)
「さあ、時間がありません。その身体の状態で放出しなければ、もって20分といったところでしょう」
「……」
「集中して下さい。大丈夫。いつも通りにやれば、アイリス様には問題なく出来ますよ」
私は頷くと、空に手のひらを向けて意識を集中させた。
(空に、魔術を────放つ!!)




