他国のスパイ
壁に耳を当て、中腰になっていた私は、かなり間抜けなポーズをしたまま固まっていた。
やっぱり‥‥‥。話をしていたのは、エレナ様と司教様だったようだ。
どういう訳か、私は魔術具を向けられ、殺されそうになっている。
「アイリス様!! 司教様、お止めください」
エレナ様が駆けてきて、私に背を向けて司教様の前に立ちはだかった。司教様から庇うように両手を広げていたが、魔術が展開され、目の前に大きな炎が現われる‥‥‥。魔術が施行される前だと気づいたときには遅かった。
「爆裂火炎魔法!!」
私はエレナ様を突き飛ばすと、司教様の前に躍り出た。
(ああ‥‥‥。また聖女様を突き飛ばしてしまったわ。あれ? 聖女様じゃなかったんだっけ?)
死ぬかもしれない時に、私は訳の分からないことを考えていた。
「ハハッ‥‥‥。いくら『識る力』を持っていようと、これは避けきれまい」
そう言って、司教様はいかにも悪役っぽい笑いをしていた。いや『悪』そのものなんだろうけどね‥‥‥。ゲームの中では、そんな設定無かったと思うんだけど?
そんなことを考えている内に魔術が放たれた。私は両手を目一杯広げ、魔術を吸収することに集中する。
思ったより大きな魔術に苦戦していた‥‥‥。炎を取り入れる先から魔術を解体して取り入れていたが、炎のスピードについていけずに気が遠くなりかけていた。
(エリオット様‥‥‥。最期に一目会いたかったな)
力尽きて倒れそうになった時、そんなことを考えていた。
けれど、倒れる前に後ろから支えてくれる手があった‥‥‥。エレナ様だ。エレナ様が後ろから聖なる力を使って、魔術を解体する為の魔力を補給してくれている‥‥‥。私は足を踏ん張り、力を振り絞って炎の魔術を解体し、取り入れることに集中した。
しばらくの間そうしていたが、エレナ様の手助けもあって、全ての魔術を圧縮して吸収する事に成功したのだった。
「アイリス様!!」
膝から崩れ落ちる様にして倒れそうになった私を、エレナ様は支えながら床に座らせてくれた。
「小癪な!!」
司教様は諦めきれなかったのか、どこからか小刀を取り出すと私へ刃を向けた。
「‥‥‥」
もうここまでか‥‥‥。そう思っていると、外から勢いよく扉が開かれた。
「アイリス!!」
いきなり部屋に雪崩れ込んできたのは、エリオット様とオーベル様と騎士達だった。