ロングソード
「どれだけのことが出来るか分からないが、やってみよう。期待はしないでくれ」
エリオット様はそう言いながら、眉間に皺を寄せると、オーベル様に向かって頷いた。
オーベル様は、壁にかかった『王家に伝わる秘宝』を手に取り、恭しくエリオット様の前に両手で差し出していた。
エリオット様は腰に長剣を装着すると、私に向き直って言った。
「アイリス、行ってくるよ。部屋で待っていてくれ」
「私も参ります」
「アイリス──君が行ったら危険なんだ。お願いだ。少しの間でいいから、部屋に居てくれないか?」
「……分かりました」
エリオット様は私の頭を撫でると、踵を返して部屋から出ていった。オーベル様も、当然のようについて出て行く。
騎士を含め皆が出ていくと、私はため息をつき、さっきまで座っていた柔らかいソファに深く腰掛けて沈み込んだのだった。
「やっぱり私も行くべきだったんじゃ……」
エリオット様は心配し過ぎだと思う。今まで魔術の練習をしていたのは、いったい何の為だったのか? 私は、こういう非常事態の時に対応できるように、やって来たつもりだった。お留守番では意味がない。
(ゲームでは──何だったかしら? だいぶ状況が違う気がするんだけど)
何も思い出せなくて、エリオット様の部屋を見回していた。すると、壁にぽっかりと空いた凹凸が見え──何も思い出せずに、呆然としていた。
「あの壁に掛けてあったのって、ロングソード? ロングソード!! あれってもしかして、もしかしなくても聖剣じゃない? なんでエリオット様が持ってるのよ?!」
ゲームでは騎士団長を選択すると、聖剣を手にした人物はエレナ様を魔物から守って亡くなっていた。いくらストーリー展開が変わっているからとはいえ、そうならないとは限らない。
「こうしちゃ、いられないわ!!」
私は立ち上がると、部屋の扉を開けたのだった。
*****
勢いよく扉を開けたものの、部屋の前には護衛騎士が二人立っていた。私は出ていこうとして、護衛騎士に普通に呼び止められ、部屋へ戻った。
「殿下から、きつく言われておりますので、どうかお部屋に──お願いします」
護衛騎士は、何とか思いとどまるように私を説得し、何回も頭を下げていた。詳しい理由を話せない私は、引き下がるより他なかった。
(何て無茶苦茶な公爵令嬢なんだろう。って、思われてるわよね)
私はエリオット様の部屋に戻ると、落ち着かずに部屋の中で右往左往していた。エリオット様の命が危ない──そう思うと、落ち着かなかった。
「何か手はないのかしら……」
部屋の中を見回していて、思い出した事があった。
「そう言えば──隠し通路に繋がる隠し扉って、この部屋にないのかしら?」
城の見廻りをしていた時には分からなかったが、エリオット様のお部屋なら、あってもおかしくはない。私は姿見が置いてある前まで来ると、鏡の上半分を押してみた。
「そんなに上手くいく訳ないか」
(こういう時、壁に掛かってる絵の裏とかに扉があるのが定石よね。でも、エリオット様のお部屋には絵画なんてないし──そうだ!!)
『押しても駄目なら引いてみよう』
姿見を上にスライドし、手前へ引くと他の場所へ繋がる扉が現れた。大人一人がやっと入れる位の大きさの扉だった。
────ガチャ
私は未知の場所へ、足を踏み入れたのだった。




