恋愛相談以外
「オーベル様、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょう? 恋愛相談以外ならお伺いしますが」
「アイリス、オーベルは諦めろ。こいつは男しか愛さない」
「えっ──いえ、そうではなくて。昨日の小さな塔はどうなったのですか? 魔力が急に解放されたみたいに見えたのですが‥‥‥」
森から魔素が発生する制御装置が止められたのだ。何か異常があっても、おかしくはない。
「ああ。あれは、魔素が外部に漏れない様にしていた装置であって、元に戻ったというだけです。断定は出来ませんが、他国と同じ様な日常生活に必要な魔素が普通に得られる様になるまでには、何年もかかるでしょう。場合によっては、何十年も先になるかもしれません」
元に戻るまで、そんなにかかるものなのね。それなら、装置が壊れたことによって、今すぐ戦争になる訳ではなさそう。
「それにしても、何十年とは──ずいぶんと長い時間が掛かるのですね。塔から出た変な塊は? どうなったのでしょう?」
私がそう言うと、オーベル様は肩をすくめていた。
「私も、それが知りたかったのですが‥‥‥。時間が無かったので、まだ詳しくは調べられておりません」
「アイリス、何だい? その塊というのは?」
私は森の中でオーベル様と一緒に見た、よく分からない塊について、エリオット様に話して聞かせた。
「話を聞く限り、呪いだろうか? しかも、城に向かって放たれたとは‥‥‥。厄介なことに、ならなければ良いのだが」
「エリオット殿下、アイリス様。塔の呪いを受けた人物が分かっておりませんので、お気をつけ下さい」
オーベル様は、身の回りに気をつけるように言っていたが、部屋から一歩も出ない訳にもいかないだろう。今ここにいないサラも、きっと心配している。
「話を聞く限りだが、呪いを受けたのは、今朝、遺体で見つかった給仕担当のメイドではないのか?」
エリオット様がオーベル様に聞くと、オーベル様は首を横に振っていた。
「私も遺体を確認しましたが、呪いを受けた形跡はありませんでした」
「そうか。それなら本当に‥‥‥。気をつけなければならないな」
「ええ、おっしゃる通りです」
エリオット様は、そう言うと私の方を心配そうに見つめていたが──急に激しいノック音が聞こえて、護衛騎士が慌てた様子で中へ入ってきた。
「エリオット殿下、失礼致します!!」
オーベル様は騎士の態度が目に余ったのか、立ちあがると注意をしていた。
「なんだ? 殿下の御前、失礼だぞ」
「も、申し訳ありません。ですが、緊急事態でございまして‥‥‥」
「言い訳はよい。申してみよ」
「実は、ライナス様が‥‥‥」
(ライナス様とは、エレナ様の婚約者である騎士団長のライナス様のことだろうか?)
「ライナスがどうした?」
「ご乱心なされたのか、暴れております」
「「「?!」」」
「このままでは、近衛兵に殺されてしまいます。どうか、お助けください」
やって来た騎士はそう言うと、地べたに座り込み頭を下げた──所謂、土下座だった。