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婚約パーティー

 前世の記憶を思い出してから数日後。救世主様と騎士団長の婚約パーティーが城で開かれた。ヒロインである救世主とあまり関わり合いになりたくなかったが、すでに出席の返事をしていたため、今さら断る事なんて出来なかった。


 仮病を使おうか悩んだが、公爵家専属メイドのサラは、幼い頃から一緒にいるせいか、私の事は何でも分かってしまう。きっと、仮病で寝ててもバレてしまうだろう。


 公爵家の自室で準備をして、ブロンドの髪をハーフアップにしてもらうと、上から下にかけてグラデーションになっている紺のドレスを身に(まと)った。そして最後に、エリオット様から貰ったエメラルドのネックレスをつけると溜め息をついた。


 ネックレスは、エリオット様の瞳の色と同じ色をしており、貰った時は嬉しすぎて眠れないほどだったが、今となっては仲の良さをアピールして歩いているようで気が引ける──かといって、着けていかない訳にもいかなかった。


 私は気を取り直すと、馬車で王宮へと向かった。20分ほど馬車を走らせて王宮へ辿り着くと、エリオット様が笑顔で迎えに来てくれていた。従者が扉を開けるとエリオット様が手を差し出したので、手を取り馬車を降りた。


 エリオット様のエスコートで、婚約パーティーが行われる大広間へと向かう。先に来ていた国王夫妻とヘンリー王太子へ挨拶を済ませて、他の出席者と歓談していたが、向かいのテーブルから睨みつけるような視線を感じていた。


 それとなく振り向くと、公爵家の令嬢アンナ様がこちらを見ていた。彼女は王太子の婚約者であったが、最近になって婚約を取り消されていた。王太子の体調が良くなるまでは、婚約の話は見送りになったのである。私のせいでは無かったが、嫉妬しているのかもしれない。


 ふと気がつくと、今夜の主役である騎士団長と救世主様が会場に現れた。救世主様は漆黒の髪に黒い瞳、真っ赤なドレスを着ていた。対する騎士団長は赤い髪に茶色い瞳をしている。服装は騎士団の制服のようだ。


 救世主様は身分に関係なく、能力が買われて聖教会へ連れてこられるため、元々は平民だったらしい。


 私達は生まれながらにして魔力を持っているが、使うことは出来ない。そもそも教会が開発した魔術具がないと、使用することも出来ないし、魔力を使ったとしても寿命が削られるのだ。


 魔術師は基本的に、魔力の多いと認められた孤児がなる職業だった。危険な上に長生きが出来ないとあっては、やりたい人はある程度限られてくる。ただ戦争では最前線に立つことも多く、危険手当もつくので給料は破格だった。そのせいか、毎年応募の人数は意外と多かった。


 100年に一度生まれる救世主は、その魔力を回復させることが出来るという、特殊な能力を持っている。つまり、救世主様がいる間は魔術師は魔力によって命を削られなくても良くなるのだ。救世主様は魔術師にとっても国にとっても、誰にも代えがたい貴重な人材である。


 私とエリオット様は、歓談していた相手に断りを入れてから、救世主様と騎士団長であるライナス様のところへ挨拶に行った。挨拶が終わらなければ、帰ることすら出来ないだろう。私達に気がつくと二人共、こちらへと近づいてきた。


「失礼致します、アイリス様。お初にお目にかかります、騎士団長のライナス・マーベルと申します。こちらは婚約者のエレナになります」


 騎士団長が胸に手を当て、『騎士の礼』を取ると、私は『淑女の礼(カーテシー)』で応えた。


「ご招待いただきましてありがとうございます。グレイ公爵家のアイリス・グレイでございます。この度はご婚約、おめでとうございます」


 エリオット様は二人とは知り合いらしく、挨拶をしていた。二人が話しているのを隣で見ていたが、ほのぼのとした雰囲気が伝わってくる。幸せになって欲しい。そう思っていた矢先の出来事だった。


 エレナ様の周りに緑の群れが広がった。緑色に光る小さな集合体だ。前世で見たことがある蛍にも似ている。今まで見たことのないそれは、エレナ様の周りに集まると覆い被さった。


「えっ?! 危ない!!」


 気がついたら、エレナ様を突き飛ばしていた。


「エレナ!!」


 騎士団長が慌ててエレナ様に駆け寄る。そして、その緑の群れは塊となって私に向かってきた。避けることも出来なかった私は、緑の群れに攻撃される直前に意識を失ったのだった。




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