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中枢と末端

「さっき衛兵から報告を受けたんだが、何をしたんだ?」


 エリオット様はオーベル様を鋭い目つきで見ると、オーベル様はおどけた調子で答えた。


「たいしたことは、何もしておりませんよ。悪党を懲らしめたまでです」


「まったく──私に睡眠薬を飲ませようとした訳ではないんだよな?」


「こちらには、好奇心旺盛な姫が一人おりますからね。気をつけるに越したことはないでしょう」


「まあ、いい。それで? 兄上を謀った人物は見つかったのか?」


「申し訳ありません。結果から言えば、見つかりませんでした。私は森に火をつけた人物を捕らえたまで。尋問しましたが、なかなか口を割りません。本物のヘンリー様は、おそらく何処かに捕らえられているのでしょう」


「やはり、ヴァイオレット家か?」


「それだけでは、ないでしょう」


 ヴァイオレット家とは、ヴァイオレット公爵家の事だろうか? オーベル様は「火をつけた犯人を捕まえた」って、言っていたけれど。


「何があったのです?」


「アイリス、何でもないよ」


 そう言いながら、エリオット様は私の頭を撫でていた。何だか部外者にされている気がする。


「エリオット様、そこまで話しておいて『何でもないよ』は、ないのではありませんか? 言ってくださいませ」


 エリオット様を軽く睨むと、困った顔をしていた。代わりにオーベル様が答えてくれる。


「断定は出来ないのですが、森に火をつけた犯人に指示を出した人物は、他国と繋がっている可能性があります。それが国の中枢の人物となれば、慎重に事を進めなければなりません」


「つまり今回の一件は、ヴァイオレット家が怪しいと?」


「それだけではなく、王妃殺害未遂事件の容疑者としても、名前が挙がっております」


「ただ、ヴァイオレット公爵にはアリバイがあるからな。おそらく他の──末端(まったん)の人間にやらせたのだろう」


「まったん?」


「お茶会の日、王妃給士係を担当していた者の中に、昨夜、殺された人間がいる」


「何ですって?」


「朝早くに遺体で見つかった。おそらく口封じだろう」


 エリオット様はイライラした様子で足を組み、肘掛けを指で叩いていた。


「これがきっかけで他国と戦争になど、ならなければいいのだが……」


「それよりも先に、城内を落ち着かせる方が先決かと思われます」


「ああ、それもあるな」


 エリオット様は深く溜め息をつくと、ソファに寄りかかり沈みこんだ。


 エリオット様の疲れた様子が、何だか哀愁が漂っている感じがして──気になって、思わず目を閉じた顔の前に手を伸ばしてしまった。慌てて手を引っ込めたが、その手をエリオット様に掴まれてしまう。


「アイリス、慰めてくれるのかい?」


 目を開けたエリオット様は優しく微笑んでいたが、鋭い光を放っていた。思わず手を引っ込めようとしたが、びくともしない。


「私は、いつでも大歓迎だよ」


 エリオット様は大きく両手を広げていた。私はある意味、恐ろしくなった。あの腕の中へ入れば、『死』が待っている──そんな気がした。


 私は首を横に振ると、涙目でエリオット様を睨んだのだった。


「やれやれ。私のお姫様は強情だな」


 エリオット様は、ため息をついた後にオーベル様を見ると、再びため息をついたのだった。




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