帰還
「アイリスには、僕から話すよ」
エリオット様は護衛騎士の2人にそう言うと、私を部屋へ招き入れた。部屋に入ったところで、後ろからオーベル様に呼び止められる。
「エリオット殿下、アイリス様。お話もあるかと思われますので、私はこの辺で失礼致します」
「ああ。オーベル、ご苦労だった」
「オーベル様、ありがとうございました」
オーベル様は僅かに微笑むと、騎士の礼をして去っていった。部屋の中へ入り、扉を閉めるとエリオット様に抱きしめられる。
「エリオット様?!」
「ああ‥‥‥。アイリスが無事で良かった」
「森に火の手が上がったのを、ご覧になったのですね」
「そうなのか?」
「違うのですか?」
私達はお互いに顔を見合わせた。エリオット様は、狐につままれた様な顔をしている。
「アイリス、驚かないで聞いて欲しいんだ。兄上が行方不明になってしまった」
「えっ?!」
「それで、その‥‥‥。王太子派の貴族達が、アイリスがいないのをいいことに、君のせいだと騒ぎだしたんだよ」
「‥‥‥私が?」
「君が『織る力』を持っているという情報が、どういう訳か王太子派に漏れているらしくてね」
「そんな!!」
「それよりも問題なのは、君が犯人扱いされているということだよ」
私は森で亡くなっていた、ヘンリー王子の影武者らしき人物を思い出す。
「何だか嫌な予感がしてきました。このままだと、私はヘンリー殿下の殺害容疑をかけられてしまいますね」
「?!」
(このまま地下牢へ──何てことに、ならなければいいのだけれど‥‥‥)
そう言った私を見て、エリオット様は慌てている。
「絶対に、そんなことはさせない」
手を掴み私を引き寄せると、エリオット様は再び私を抱きしめながら、考えに耽っていた。ノック音が聞こえて振り返ると、侍従が紅茶を淹れており、身体が冷えていた私は、紅茶を貰うことにした。侍従はテーブルの上にカップを置くと、ワゴンを押して何も言わずに部屋から出ていく。
お茶を飲みながら、私は森の中での出来事をエリオット様に話していた。
森で見つけた小さな塔の話から、ヘンリー殿下の影武者らしき人物が倒れていた所まで話をすると、エリオット様は考えるように腕を組んで、しばらく何も話さなかった。
「問題だな‥‥‥。そうか、そういうことか」
独り言を言うエリオット様を見ていたが、何故か急に眠気が襲って来る。森へ行った疲れが出たのかもしれない。
「エリオット様、申し訳ありません。私、眠くて‥‥‥」
「アイリス、どうしたんだい? まさか‥‥‥」
私は手に持っていたカップをテーブルの上へ置くと、そのままソファーへ寄り掛かった。眠くて眠くて仕方がなかった。瞼を開けているのも、もう限界だ。
「アイリス、このまま寝ても大丈夫だよ。おやすみ、いい夢を」
瞼を閉じると、エリオット様の爽やかな匂いがして、額に何かが触れた気がした‥‥‥。けれど、眠気に抗うことが出来なかった私は、そのまま眠りについたのだった。
「‥‥‥睡眠薬か?」
眠りについた私の横で、カップを持ち上げながらエリオット様が1人呟いていた。