平坦な道のり
地下道は拍子抜けするくらいに何も出てこなかった。秘密の扉も無ければ魔物もいなくて‥‥‥。罠が仕掛けられていたり‥‥‥。とかもなかった。いや、あっても困るのだが。
平坦な道をずっと歩いていると、どれくらい歩いたのか、何時間たったのか、それさえも分からなくなってくる。
「アイリス様、もうよろしいのではありませんか? そろそろ戻りましょう。日が暮れてしまいます」
「今、戻っても日は暮れているではありませんか? それなら、もう少し先へ行ってみましょう」
オーベル様は目に見えて疲れていたため、流石に申し訳ないなと思い始めていた。
「ええ、ええ!! 参りましょう」
電池が切れていた動く人形が、再び動き出したかのように、オーベル様は歩き出したのだった。
*****
地下道を真っ直ぐに、ずっと歩き続けていた。もう、これ以上歩けないと思い始めた頃、寒くなってきたので、少しおかしいと思い、立ち止まった。
「気温が下がって、寒くなったのかと思ったのですが、風が吹いている気がします。どこかに出口があるのかもしれません」
「そうですね。出口があればいいのですが‥‥‥」
「あっ、明かり」
少し先に、壁に点いている明かりとは別の明かりが見えていた。明かりの見える方へ駆けていくと、オーベル様も慌ててついてくる。
「えっ?! アイリス様、お待ちください~!!」
100mくらい走って行くと、さっきまで見えていた明かりは見えなくなり、そこは分かれ道になっていた。
「オーベル様、右から風が吹いてきている様です。右に行ってみても、よろしいでしょうか?」
「外に出れる可能性が少しでもあるのなら、その方がいいでしょう」
「そうですわね。右へ行ってみましょう」
一旦は右へ進んだものの、2人とも慎重に歩を進めていた。けれど、道の先は行き止まりになっており、壁に沿って、また『コ』の字型の手すりがついていた──上へ登れるのだろうか?
「アイリス様。見てまいりますので、こちらでお待ちください」
「承知しました」
「何かあれば、これをお使いください」
「これは?」
「通信器の様なものです。まだ試作段階ですが‥‥‥」
そう言って、小さな箱を取り出した。からくり箱を更に小さくしたみたいな、手のひらサイズの箱だった。
「それに話しかければ、私に聞こえるようになっております。ただ私の方から、アイリス様へお伝えすることは出来ないのですが‥‥‥」
(前世で言うところの、一方通行型の携帯電話みたいなものだろうか?)
「ありがとうございます」
オーベル様が地上へ登っていくのを見届けると、私は小さな箱を握りしめ、そのまま通路の端にある石に腰掛けたのだった。