地下道へ
入口の穴は小さく、大人1人がギリギリ入れる位の大きさだった。穴が縦に下へ伸びており、側面に『コ』の字型の、足を掛けられるような手すりがついている。まるで大きめのマンホールの下にある穴の様だ。
「これは‥‥‥」
「地下道にでも繋がっているのでしょうか?」
「調べてみましょう」
オーベル様は、ガックリと肩を落とした。
「言うと思いました。私が中へ入って様子を見てきますので、そちらでお待ち下さい」
そう言って、オーベル様は石碑の周囲に結界を張った後、穴の中へ消えていったのだった。
*****
しばらくすると、穴の中から顔だけ出したオーベル様が聞いてきた。
「アイリス様、中は思ったより広いです。一度、ご覧になりますか?」
「ええ」
オーベル様は穴から出ると、私に中へ入るよう促してくれた。背後を気にしているから、周囲を警戒しているのだろう。
「アイリス様。危険ですから、ゆっくりと降りていってください。右足が着いてから、左足を出す形にすると、よろしいかと思います」
いくらお嬢様だからって、それくらい分かるわよ‥‥‥。そう思ったが、さすがに口には出さずに、ゆっくりと降りていく。中が暗くて、どうなっているのか非常に分かりづらい。目の前の手すりを見ながら、必死に降りていった。
数メートル降りた先に、手すりが途切れている場所があった。途切れた部分の先に地面があるようだが、暗くてイマイチ距離感がつかめない。飛び降りようにも飛び降りられないでいると、上からオーベル様が降りて来ていた。
(オーベル様が上から降りて来ていたのね。だから、よけいに暗かったのかしら)
そう思っていると、上から声が聞こえた。
「アイリス様、地面はすぐそこですので、そのまま飛び降りてください」
声に驚いた私は手を離してしまい、地面に着地した瞬間に体勢をくずして、尻もちをついてしまった。慌てて降りてきたオーベル様が、心配して駆け寄ってくる。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。それにしても暗いわね。中は、どうなっているのかしら?」
「お待ちください──インテクト!!」
オーベル様が呪文を唱えると、明かりのようなものがついた。目が慣れてくると、そこは思ったより広い地下道だった。さっきの呪文で、壁際にあるライトの装置みたいなものが一斉に起動し、明かりが点いたようだ。道は奥の方へと続いている。
「どうやら城の方まで続いているようです。どう致しますか?」
オーベル様は、そう言いながらも早く城に帰りたい雰囲気を醸し出していた。何をそんなに心配しているのだろうか?
「このまま進んでみましょう」
私はゲームの事などすっかり忘れて、地下道の探検に心を躍らせたのだった。