調査
結界があった場所に入ると、調査を開始した。開始したと言っても、私は何もさせてもらえなかったのだが。
「アイリス様、いいですか? 私が良いと言うまで、そこから動かないでください。何かあれば、直ぐに声を掛けてください」
オーベル様は、こめかみをひくつかせながら笑顔で喋っていた。私は思わず、器用だなと思ってしまったが、顔には出さずに、笑顔で「分かりましたわ」と答えたのだった。
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周辺の調査が終ったのか、30分くらいするとオーベル様は銅盤がある場所から、こちらへ戻ってきた。
「これといった異常は、特に見つかりませんでした。結界は全て破られておりますし、魔素を吸い取る陣もアイリス様の『識る力』によって、消滅したものと思われます」
「そう──銅盤へ少し近寄っても、大丈夫かしら?」
「それでしたら、ご一緒に参りましょう」
オーベル様は、私の手を恭しく片方の手のひらの上に乗せると、銅盤に近づいていった。
「この銅盤……」
「どうかなさいましたか?」
「いえ。気のせいかもしれないけれど、何かがおかしい感じがして──何かこう、飛び出しているような?!」
「銅盤がですか?」
「ええ。浮いているとでも言うのかしら? 結界は消滅したのよね?!」
「はい。アイリス様の識る力によって、全て消滅しております」
「その銅盤を少しずらしてもらえないかしら? スライドできると思うのよ」
「スライドですか?」
おっと、危ない。スライドなんて言葉、この世界には無いんだったわ。
「ええと、横にこう動かして──教会にある、確か司教部屋の窓の造りが、同じだったと思うのだけれど」
「ああ、分かりました。少々お待ちください」
オーベル様は銅盤に再び近づくと、這いつくばって、横へずらし始めた。一辺が90センチメートルくらいの台形の形をしていて、そんなに大きくはなかったが、なかなか動かないようだった。
「私も手伝いますわ」
「何の、これしき……」
そう言いながら、オーベル様は顔を赤くして、玉のような汗をかいていた。横から見ているだけだったので、さりげなくフォローを入れる。
「石がストッパーになっているみたいですね」
「ストッパー? ああ、こちらですね」
いけない。さりげなくフォローしようとして、また前世の言葉を口走ってしまったわ。
オーベル様は、挟まっていた小石を退けると、銅盤をスライドさせた。
「……」
目の前に、小さな入口らしき穴が現れた。




