森へ
2日後に、私達は『魔術訓練』という名目で、森へ来ていた。城にいないこと自体、かなり無理矢理な理由で出てきていると思う。
名目上は、オーベル様の魔術訓練ということにしていた。
「アイリス様が王族として、どれくらいの魔術を使えるか試してみたいと思うのです。競技場だけならまだしも、城が壊れては問題でしょう」
先にエリオット様に話を通してはいたが、説得しきれずにオーベル様に協力をお願いしていた。最終的に、オーベル様の説得のおかげで何とか旅へ行くことを、認めてもらえたようである。
「アイリス、君のことが心配でたまらないよ。婚約披露パーティーまでには、必ず戻って来てくれ」
「心得ておりますわ」
エリオット様が一瞬、捨てられた子犬の様に見えた気がしたのは、気のせいだろうと思うことにした。
さらには、出掛けるときにエリオット様がオーベル様を睨んでいた気がする──何かあったのだろうか。
「殿下、アイリス様のことは自分の命に代えてもお守り致しますので、ご安心ください」
オーベル様がエリオット様に向かって騎士の礼をすると、エリオット様も居ずまいを正して言った。
「ああ、よろしく頼む」
私とオーベル様は、それぞれの馬に乗って目的地の森へと向かった。馬車で行くと、いざというときに上手く動けないからである。城門を出ると、少し先に広大な森が広がっているのが見えた。
*****
別名『魔の森』と呼ばれるその森は、近づくにつれて陰気な雰囲気を醸し出していた。何と言うか──人が寄りつきたくないと思う何かがある。
城から少し離れた場所にある森へ到着するのに、あまり時間はかからなかった。さっきまで晴れていた空が、心なしか曇ってきている。
「オーベル様、何かあります」
見れば森の小道を抜けた先に、広場みたいな場所があり、塔が建っていた。地面に台形の銅板が八角形に敷き詰められており、その上に三角錐の様な搭が2メートル位の高さで建てられていた。周りにはバリケードの様な結界が張られており、太陽の光に照らされて煌めいている。
「これは……」
「結界でしょう。お気をつけください」
私が少し近づいただけで、静電気のようなものが、目に見える形で爆ぜていた。
「いったい、何故このようなものが……。オーベル様はご存知だったのですか?」
「いえ。森に、このようなものは無かったはずですが──なるほど。これは、アイリス様の特殊能力が原因なのかもしれない」
「私の?」
そう言って、馬から降りたオーベル様は結界の内側にある地面を凝視していた。
「やはり、隠遁の魔法陣が敷かれていますね。どうりで今まで気がつかなかった訳だ」
「いんとん?」
「隠された魔術ということです。我々は、今までこの魔法陣のせいで、この結界を知らず知らずのうちに避けていたのでしょう。けれど、アイリス様の『識る力』のお陰で、偶然にも見つけることが出来たのだと思われます」
そう言えば、森に追放されたアイリスが『魔術を使って王宮に復讐するけど、返り討ちに合う』っていう、バッドエンドな展開もあったわよね。それと何か関係しているのかしら?!
「うーん……」
考え込む私を余所に、オーベル様は話を続けた。




