試練
「オーベル様、確認をお願いします」
数ヵ月が経ち、魔術の練習も佳境に入っていた。今日は薬草を使った解毒薬の、最終チェックに入っている。
実戦形式の魔術訓練は、オーベル様に既に合格点をもらっており、最近は魔術薬を作るための薬の精製に励んでいた。
「アイリス様、合格です。かなり上達されましたね」
「ありがとうございます」
「婚礼までに、終えられて良かったです」
「そのことなのですが──婚約発表を見送りにさせていただこうかと思っているんです」
「どういうことでしょうか?」
「エリオット様には言っていないのですが、王妃様を狙った犯人が分かるまで、延期してもらおうかと考えております」
「そんな──警備体制はライナスと相談して、しっかり警護いたしますので、お考え直しください」
オーベル様は、困った様に眉を八の字にしていた。延期にすれば、結婚自体がかなり先伸ばしになり、何年も先になってしまうだろう。私はそこを狙っているのだが。
「そうではないのです。詳しくは言えませんが、婚約出来ない理由があるのです」
「?!」
「私は近いうちに、森に向かおうと思っています。妃になれば、簡単に行くことは叶わないでしょう。何となくですが──森に今回の事件の謎を解く鍵があるような気がしてならないのです。今、解決しなければ、この後さらに犠牲者が増えるでしょう」
半分は、はったりだ。ほとんど勘だと言っていい。
それに、このまま進んではいけないと、私の中の本能が警鐘を鳴らしている気がする。
今、言った言葉は、ある意味『かけ』である。オーベル様がどう出るのか、私には分からない。
「アイリス様。どうしてもですか? お考えは、お変わりになりませんか?」
「はい」
オーベル様は、困った様に顔を顰めると考え込み、やがて意を決した様に顔を上げた。
「アイリス様──分かりました。私もお供致しましょう」
「?!」
「ただ、お約束ください。森から帰ってきたら、殿下と婚約発表なさると」
「分かりました」
「エリオット殿下には、私から話しておきます。すぐに準備に取りかかりましょう。明後日には出発します」
一週間後に婚約発表を兼ねた王家主宰のパーティーがある。それまでに戻って来なければならないだろう。そのパーティーでは、エリオット様が、王太子になる発表もあると噂されている。ヘンリー様が正式に王太子を辞退する──ということだ。
「時間がないわ」
私はそう呟くとオーベル様に挨拶をして、研究室を後にしたのだった。




