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回想と回避

 頭の中をいくつものスチルがフラッシュバックする。


 うーん。ハマってたのは高校生の時だったし、よく覚えてないのよね。他のゲームと、頭の中でごっちゃになってる可能性が大だわ。


 成人してからは、どちらかと言えば別ゲームの、『教授シリーズ』ばかりやっていたので、この手の続編は一切やっていない。


 確か、最終的に処刑か国外追放か、修道院送りだったかしら。いや、嫌がらせだけで処刑とか?! いったい、どんな国よ?!


 バッドエンドの、あまりにもひどい展開に途中で止めてしまった記憶もある。


「はぁ‥‥‥」


(さっきから、何回も溜め息ついてる。これじゃ、幸せが逃げるわね)


 私は気を取り直して、姿見の前まで来るとドレスにシワが寄っていないか確認しつつ、改めて自分の顔を見た。前世より、目鼻立ちは整っているものの、いかにも悪役らしい顔つきをしている。良く言えば小悪魔的な?


 鏡に向かって笑ってみるが、何かを企んでいる笑いにしか見えない。今までは、あまり気にしていなかったが、前世を思い出してから余計に気になっていた。


「いかにも悪役だわ。美人でもないのに、よく嫌がらせなんて出来るわね」


 無意味だったが、鏡の中にいる自分に向かって呟いた。


 あまり思い出せないが、ゲームの中に出てくる悪役令嬢を思い浮かべてみる。ゲームをしている間は主人公になりきっていたから、無性に腹がたって仕方がなかったけれど、いざ自分がなってみると、小心者の私にとっては恐怖でしかない。


 アイリスとして、今まで誰にも嫌がらせなどは、したことが無いと思っていたけれど、思い出せないだけで、知らないうちに誰かを不愉快な思いにさせたことが、あったのかもしれないとも思った。


 手元にあったベルでメイドを呼ぶと、すぐにノック音が聞こえ、メイドのサラが部屋の中へ入ってくる。


「お呼びでしょうか?」


「調べものがあるので、今から書庫へ向かいます。悪いけれど、許可を取って鍵を持って来てもらえるかしら?」


「かしこまりました」


 筆記具と紙を用意し終わると、ランプを片手に持ったサラが戻ってくる。


「お待たせ致しました」


(いや、全く待っていないけれどね。私のメイドは優秀なメイドばかりだわ)


 感嘆の溜め息を漏らすと、廊下に出て2人で書庫へ向かった。


 城の1番奥にある書庫は王族専用の書庫だったが、私はエリオット様の婚約者なので、許可を得られれば使用することが可能だった。


 書庫には大量の蔵書があったが、奥のスペースに使われなくなったアンティークのテーブルと椅子が無造作に置かれており、私は落ち着いた雰囲気のある、この場所が好きだった。考え事や調べものをする時など、いつも1人でこの場所を訪れていた。


(とりあえず、何か対策をたてなければどうすることも出来ないわ)


 私は本棚から法律の本を取り出すと、『救世主』における、不敬罪について書かれている欄を確認してみた。


 妃教育で法律について、勉強はしていたものの、主に外交における法律を中心にやっていたので、自国の王族や救世主に対する不敬罪については、しっかりとは教わっていなかったのだ。


 何度確認してみても、不敬罪で処刑になるとは書いてなかったが、『状況に応じて罪の重さを国王が決める』と書いてあった。ということは、国王次第? 国王の気まぐれで私は処刑されるのかしら?


 よく分からなかったものの、私は本に書かれている内容を紙に書き写した。書き写し終わったタイミングで、メイドのサラが声を掛けてくる。


「エリオット殿下がこちらへお越しです。中にお入れしても、よろしいでしょうか?」


「かまいません」


 私は話しながら、紙を本の下へ隠した。


「アイリス、調べものをしてたの?」


「いえ、その‥‥‥。法律について、復習していただけですわ。エリオット様、どうかなさいましたの?」


「いや、特に用って訳じゃないんだけど‥‥‥。今日の夕食の後、時間あるかな?」


 エリオット様は、金髪碧眼の超絶美形だ。ゲームのスチルで見た時の印象より何倍もかっこいい。こんな小悪魔令嬢の婚約者で本当にいいのだろうか? そんな疑問が頭の中を(よぎ)る。


「申し訳ありません。今日は、妃教育の勉強をしたくて‥‥‥。最近、公務が多くて勉強がちっとも進んでいませんの」


 それに、これから断罪イベントで婚約破棄されるかもしれないのだから、今から話すことなんて何もない。一緒にいても、かえって虚しくなるだけだ。


 そもそも勉強が進んでいないのは本当だ。本来なら、妃教育は王太子の婚約者がするものだ。私は第2王子の婚約者だったため、教育は基本的なものしか受けなかったし、王太子殿下が国王になった時、エリオット様は臣下になる予定だった。けれど、いよいよ心の準備をしなければならない段階に入ってきたといっても、過言ではないだろう。


「分かった。また今度、時間を作ってくれると嬉しいな」


 エリオット様は、優しく微笑むとその場を立ち去った。


 エリオット様の話、まさか婚約破棄したいとかじゃないわよね?! 私は棚に本を戻すと、こめかみを押さえながら、自分の部屋へ戻ったのだった。




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