見識の違い
私は奥の部屋にいるエレナ様と司教様がどうしているのかが気になって見に行ったが、何故か驚いた顔をされてしまった。
「どうなさいましたか?」
不思議な顔をする司教様になんと言ったらいいのか分からず、曖昧な言葉を返した。
「先ほど建物が揺れたと思うのですが‥‥‥。こちらは、大丈夫でしたか?」
司教様は相変わらず不思議な顔をしていたが、エレナ様はエレナ様で、テーブルの横にある椅子に腰かけ少し疲れた顔をしていた。
「この辺りは地盤がしっかりしていないところもあると言われています。ちょっとした振動を大きく感じとってしまったのでは、ないでしょうか?」
全くもってそんなレベルの揺れでは無かったが、司教様の様子から、『これ以上、何を言っても無駄だろうな』と思った。
「地盤が緩いか‥‥‥。後で調査をしなくてはならないな」
いつの間にか、後からやって来たエリオット様が顔を覗かせ、そう言っていた。司教様は少し困った顔をしている。
「これから多くの式典や婚礼の儀式、聖女祭が控えておりますので、お手柔らかにお願い致します」
そう言って、司教様は一礼をした。遠回しに『調査はやって欲しくない』と言っているのであろう。
「エリオット様、お時間です」
エリオット様の後ろからジルの声が聞こえた。そろそろ戻らなくてはいけない時間みたいだ。
教会の外へ出ると、エリオット様は一礼をしてから私の手を取り、手の甲に口づけをした。あまりに自然な動作だったので、違和感なく受け止めてしまったが、急に手を握られたので恥ずかしくなってきてしまう。
「アイリス‥‥‥。こんなことになってしまったが、また会ってくれると嬉しい」
エリオット様は微笑むと、ジルと共に足早に立ち去っていった。私は迎えに来ていたメイドのサラと一緒に、自分の部屋へ戻ったのだった。