城中散歩
それから数日後。私はエリオット様と2人で城の中を散歩していた。
「アイリス、こうして2人で会うのも久しぶりだね」
「え、ええ」
私達は周りの思惑に上手く乗せられて、城の中を散歩していた。少し離れた所から、護衛のジルがついてきているので、デートというよりは城の見廻りに近かった。
エリオット様は、私をエスコートしながら色々な話をしてくれた。国内行事や政治、側近の話など‥‥‥。今まで会っていなかった分、話の種はつきなかった。
「そう言えば、結婚式は城の中の教会で挙げる予定だったよね。少し、下見していこうか」
そう言ったエリオット様は、私の方を振り返って微笑んだ。
「そうですわね」
私が相づちを打つと、エリオット様は教会へ向かって歩いていった。教会は城の中では一番西に面しており、信者以外は入りづらい構造になっている。
質素な造りで、城の壁面とあまり変わらない色をしているので、近くまで行かないと教会があるということは分かりづらかった。
中へ入ると、前世でいうところのキリスト教の教会と、ほぼ同じ造りになっていた。違うところと言えば、ステンドグラスが無い代わりにガラスや魔石で作った芸術品が壁に掛けられていた。
祭壇の左手奥にある奥まった場所で、司教様が聖女エレナ様と話をしていた。少し離れたところで、司教の息子であるジェイド様が腕を組んで2人の様子を睨むように見ていた。
「これはこれはエリオット様。ようこそおいでくださいました」
司教様が私達に気がつくと会話を切り上げて、こちらへ向かって歩いてきた。司教様は取り繕う様な笑顔で話しかけてくる。
「ご報告の予定はございませんでしたが、何かございましたか?」
司教様の言う『報告』とは、城でいう定例会議の事を言っているのだろう。
「いや、もうすぐ婚礼の儀式があるから、散歩がてら教会の様子を見に来ただけだよ。そのままで構わない」
「左様でございましたか‥‥‥。どうぞごゆっくりご覧ください。私どもは失礼致します」
そう言うと、司教様とエレナ様は奥の部屋へと入って行き、司教の息子であるジェイド様は、こちらを一瞥すると何も言わずに教会を出て行った。
そう言えば、教会と王族は仲が悪かったはず。教会側は、もともと感じが悪いことで有名だったが、そんな雰囲気は感じられなかった‥‥‥。気のせいだろうか?
そう思っていると、建物が激しく揺れた。
「危ない!!」
切り裂くような声が聞こえて、近くにあった魔石が砕けて粉々になった。咄嗟に身を伏せるが、恐怖でそれ以上動けずにいると、エリオット様が私の上に覆い被さる様にして、外敵から身を守ってくれていた。
しばらくすると揺れが収まり、エリオット様は顔を上げ、扉を開けて外を見ていた。辺りを見渡すと、微かに緑の光の残骸の様なものが光って見えた。
「おかしい。どうやら揺れが起きたのはここだけのようだ」
「そうなのですね‥‥‥。先ほど、緑の光の残骸の様なものを目に致しました」
「やはり魔術か‥‥‥」
「それに‥‥‥。あの悲鳴みたいな声は何なのでしょう?」
「悲鳴みたいな声?」
「聞こえませんでしたか? 『危ない』と、誰かが叫んでいた様に聞こえましたが‥‥‥」
「いや、それは‥‥‥。おそらく精霊の声だろう。魔術の能力に長けた者には、稀に聞こえるらしいが‥‥‥。『識る力』を持つ者なら聞こえてもおかしくはないな」
「精霊の声‥‥‥」
教会周辺を見回っていたジルが教会の中へ戻ってきて、中の状況に驚いていた。
「いったい何が、あったのです?」
私とエリオット様は、何も言えずに顔を見合わせたのだった。