魔術回路
前世の記憶を思い出した時に、気になった事があった‥‥‥。それは、『ゲームの中で魔力が減っても、死んでしまうことは無かったのではないか?』ということだ。
魔力というのは、他のゲームでもそうだったが『魔素』というものを大気中から体内に自然に取り入れるはず‥‥‥。ただ、前世の記憶が曖昧すぎて確かな事は何も分からない。
それに寿命が縮むというのは、今のところ話に聞いただけで、実際にどういう事なのか‥‥‥。ということも分からない。前世での日本の様に、医療が発達している訳でも無いので、証明は出来ないし、なんせ怪我をしても治癒術という魔術で治ってしまったりするような世界なのだ。
『魔素を得るために何かしていたか? そもそも魔素って、大気中に含まれるのでは?』
──今日も答えの出ない疑問を抱えていた。
城の周りに目立った建築物などは無かったが、ずっと南に行くと森がある。魔物が出たりして危ないので1人では行けない様な場所にあるのだが、森に行けば魔素について、もっと何か分かったり、前世の記憶を思い出したりするのではないか‥‥‥。いつの間にか、そんな風に考えるようになっていた。
ただ反対されることは分かっていたため、考えては諦め、考えては諦め‥‥‥。を繰り返していた。
何故なら冒険者パーティーを組んでいる訳でも無いのに、自分で言うのもなんだが、王家に連なる公爵家の令嬢───しかも王子の婚約者が、行けるような場所では無かった。だから森に行きたいなどと、言えるハズもなく‥‥‥。危険すぎるため、近くに住む農民も、滅多なことでは森に近づいたりしないと聞いている。
「サラ、南の森にパワースポットがあるって噂で聞いたの。何でも森の泉で願い事をすると叶うらしいのよ‥‥‥。行ってみたいわ」
ありもしない噂話をして、専属メイドのサラの反応を見てみたが、サラは眉をひそめただけであった。
「アイリス様? 何を仰っているのです? そんな暇があったら、もっと勉強に励んでくださいませ」
「分かっているわ。気分転換よ。何か別のことをすれば、犯人を思いつくかも知れないって思っただけよ」
「でしたら気分転換に、エリオット様とお散歩でもされてはいかがですか?」
エリオット様を避けていることに、おそらくサラは気づいているのだろう‥‥‥。いらないことを言われてしまった。
「そうね。少し考えてみるわ」
サラは溜め息をつくと、それ以上何も言わずに、ダンスレッスンで乱れた私の髪の毛を結い直してくれた。
犯人の目星はついていた。私の見立てが正しければ、アンナ様が非常に疑わしい。
公爵令嬢のアンナ様の父であるヴァイオレット公爵は、他国との交易を行っている事で有名だ。私達の知らない情報を手に入れやすい立場にもあるし、何より私や王妃様がいなくなれば、王妃の座はアンナ様に回ってくる可能性が高いのだ。
ただ、『アンナ様本人が直接かかわっているのか? 本当の所はどう思っているのか?』などということは、分からないと思っていた。
アンナ様と個人的な話をしたことはない。聞いた話によると、ものすごくプライドが高いという。
アンナ様がヘンリー王子の妻になれなかったことよりも、王妃になれなかったことに落胆しているという話は、誰もが知っている周知の事実だった。