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魔術薬

 お茶会の事件から、特に何の進展もないまま1ヶ月が過ぎていた。


 魔術訓練を受けるために、朝早くオーベル様のいる魔術訓練所へ向かったが、今日は訓練をしないと言われて、何故か来たことのない東棟の3Fへ来ていた。


 オーベル様の後について行くと、ある部屋の前で立ち止まり、部屋の中へ入った。私もオーベル様に続いて中へ入ると、部屋の中はクサい臭いで充満していた。


「うわっ‥‥‥。ひどいな」


 オーベル様は鼻をつまみながら、部屋の窓を開けて換気をしていた。部屋の中にいる白衣を着た人達は動じずに、何かの研究に集中しているようだった‥‥‥。テーブルの上には、ビーカーやフラスコ、計量器の様な物が、ところ狭しと並べられている。


「アイリス様、申し訳ありません。こちらは薬の製造と、開発をしている研究室になります」


「開発?」


「はい。普通の薬に加えて、特殊な毒に対する解毒薬や魔術に使用できる薬を研究しております。もちろん、薬の精製もしておりますよ‥‥‥。ほら、お前たちっ、挨拶しろ!!」


 オーベル様が、周りに渇を入れると白衣を着た研究者達は、座ったままオーベル様の方を見上げた。


「構いません。私に構わず、研究に集中してください」


 私が手を上げて発言すると、研究者達は何事も無かった様に視線を戻して、研究を続けていた。


「その、アイリス様。今日は、薬の作り方を学んでいただきたいと思っております」


「薬? 私に作れるかしら?」


「薬は『土魔術』が使えれば、作ることが可能です」


「確かに、土属性は持っているけれど‥‥‥。難しいのではないかしら?」


「大丈夫です。そんなに難しくはありませんよ。使用する魔力も、ほんの少しで大丈夫なので‥‥‥。ここで研究している者達は、もともとの魔力量が少なく、攻撃魔術を得意としない者が多いのです」


「そうなのですね」


 魔力量が少ない‥‥‥。それなら、単純に魔力量=(イコール)寿命って訳でもなさそうね。


「アイリス様、こちらへどうぞ」


 オーベル様に、奥にあるテーブルへ案内された‥‥‥。他のテーブルとは違い、一段高い所にある大きなテーブルだから、きっとオーベル様専用のテーブルなのだろう。


 私がテーブルの前に立つと、目の前に金の縁取りがある大きめのゴブレットが置かれる。グラスを金の装飾で覆っているゴブレットは、台の部分に黄色い石が埋め込まれていた。


「これは、薬の精製に使うゴブレットです。薬草を入れた後に、かき混ぜると薬が作れるゴブレットになりますが‥‥‥。やってみますか?」


 オーベル様は、私に銀のスプーンを手渡すと作り方を説明してくれた。私は置いてあった薬草を説明された通りにゴブレットの中に入れ、スプーンでかき混ぜた───すると、光が満ちて中の薬草が粉々になるのが見えた。


「ゴブレットの縁を撫でてみてください。それで、痛み止めの薬が完成するはずです」


 私は言われた通りに、ゴブレットの縁を人差し指で撫でた。もちろん、土魔術を少し放出させながらである。すると、『キュイン』という音がして、中の物質が変化した。まだ光の中に浮いているが、オーベル様によれば、これで薬草から薬に必要な成分だけが取り出されているのだという。


「今度は、薬を『液体』か『固体』か『粉末』か、薬をどういう形にしたいかイメージして、縁を撫でてください」


 私は粉末をイメージして、ゴブレットの縁を撫でてみた‥‥‥。けれど、何も変化は起こらなかった。何回やっても出来ない私の様子を見るに見かねたのか、オーベル様が代わりに作ってくれる。


「イメージが明確でないと、作るのは難しいと思います。すぐに出来るようになる訳でもありませんから、気にしないでください」


 そう言って、固形になった痛み止め薬を見せてくれた。ゴブレットに入った薬は、完成と共に光は失われていたが、代わりにゴブレットの台に嵌め込まれている黄色い石が鈍く光っていた。ブレスレットと同様で、成功したということなんだろう。まあ、私が成功した訳じゃないんだけどね。


 使用した道具を片付けて、オーベル様と私は部屋を出た。


「たまには、こういった訓練もいいでしょう。何か別な事をすると、いままでと違って、いろんな視点で物事を考えられたりする事もありますから」


「お心遣い、感謝致します」


 私は部屋の前で、淑女の礼(カーテシー)をした。


「解毒薬も、ここで作られているのですか?」


「全てではないですが、作られています。ただ、魔術で作られた毒に対する解毒薬は、開発が遅れていて、毒によって効くものと効かないものがあるんですよ‥‥‥。解毒も、やり方や量を間違えれば毒になるから、解毒薬を作るのは、すごく難しいんです」


「そうなのですね」


「アイリス様も、毒について知識を増やされた方が、いいかもしれません。エリオット様のご婚約者であらせられますから」


 婚約者‥‥‥。その言葉に一瞬、顔が引きつりそうになった。毒に気をつけなければならない。王族とは、恵まれているようで難しい立場なのだ。


 解毒薬が作れれば、いざという時にエリオット様を助けられるかもしれないし、この先、誰かに殺されそうな場面に遭遇しても、すぐに解毒薬を飲めば、対処できることもあるかもしれない‥‥‥。そんな時は来なくていいし、来て欲しくもないが、知識は大切だ。例え無一文になっても、自分を助けてくれる。


「オーベル様。解毒薬なのですが、私にも作り方を教えていただけないでしょうか?」


 オーベル様は、少し考えるような素振りを見せた後、私に向き直ると言った。


()()()という訳にはいきませんが‥‥‥。いいでしょう。考えておきますので、今は他の魔術訓練を頑張りましょう」


「ありがとうございます、オーベル様」


 新しいことに挑戦することが出来る‥‥‥。そのことに嬉しくなった私は、頬が緩むのを抑えることが出来ないまま、自分の部屋へ戻ったのだった。




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