挨拶回り
今日は王妃教育がお休みだった為、午後から城の見廻りを行う事になった。
午前中に教会で式典があったらしく、城の中は複数の信徒や侍従が行き交っていた。そんな中、護衛騎士のジルと一緒に散歩するふりで、城の中を見廻っていた。
「エリオット様は、午後から予定が入っていたのではありませんか? エリオット様の護衛は大丈夫でしょうか?」
私がそう聞くと、ジルは苦笑していた。
「大丈夫でございますよ。アイリス様は見かけによらず心配性ですね」
見かけによらずは、余計だと思う。ゲームの中では悪役だもの。私は冷徹な人間にでも見えているのかしら? そう思いながらも、回廊をゆっくりと歩いていた。
「ジル──思ったことを聞いてもいいかしら?」
「内容によりますね」
「向かいの建物についてなんだけど、2階の造りとだいぶ違うと思うの」
「どういうことですか?」
「ここから見える西棟の端にある部屋は2階に行くと、1メートルから2メートルくらいスペースが無くなっていると思うの。まるで柱に吸収されてスペースが狭くなっているみたいに見えるわ」
「面白いことを言いますね」
「私は真面目に話をしているのよ」
「そのことを、どうお考えですか?」
「どうって──聞いていいのか分からないけれど、隠し部屋か隠し通路があるんじゃない?」
「いずれ王妃になられるお方ですから申しますが、そういうものは昔から存在しているみたいですよ。ただ、王族しか使うことは許されないとか、そんな類いのものです」
「外から見て分かってしまうのでは、隠し通路の意味は無いんじゃないかしら?」
「それは──本当に何も知りませんので、何とも申し上げようがありません」
困った様に愛想笑いを浮かべたジルに、私は謝った。
「変な事を聞いてごめんなさい」
「いいえ。先を急ぎましょう。見廻りが出来る時間も、限られておりますから」
ジルに促されて、私は廊下を進んでいった。いつもより人が多いせいか、見知った人が通る度に挨拶をされてしまい、途中から見廻るどころでは無くなっていった。
魔力が行き交うなどの異変などは見つからず、見廻りというより挨拶回りになってしまったが、何とか時間内に城の中を一通り見廻ると、私は自分の部屋へ戻ったのだった。




