魔術訓練
「頻繁に見廻っても、かえって怪しまれるのでは?」という話になり、城の見廻りは月に1、2回程度にして、それ以外の午前中は魔術を訓練する訓練時間となった。
魔術師団の団長、オーベル様が直々に指導してくれることとなり、私としては頼もしいと思いつつも、何だか気まずかった。気まずいと感じているのは私だけだろうか?
それにエリオット様との婚約破棄を考えている私に、授業をしてもらうのは悪いとも思っていた‥‥‥。でも、そこは王妃様を狙った犯人を捕まえることによって、恩を返したいと思っている。
こんな考え方をするのは、前世が日本人だったせいもあるかもしれないけど‥‥‥。犯人が捕まらなくて、罪を着せられたりでもしたら、国外追放になる可能性は捨てきれなかった。そしたら魔術は使えた方が良いに違いない。そんな思いにとらわれながらも、今日も魔術の訓練を受けていた。
魔法技術───いわゆる魔術の種類は、一般的に『火・水・風・土・光・闇』に分類され、たいていの人は1人につき、1つの属性を持っている。稀に複数の属性を持っている人もいるが、そういう人は滅多にいなかった。
身近な人で言うと、エレナ様が風と光魔法を使えて、オーベル様は全属性が使える。知っている人で複数の属性が使える人は、それくらいだった。ちなみに私は『土』の魔法しか使えない。
ただ、識る力を操ることで、全属性を使うことが可能になるので、かなりチートな能力だと思っている。
今日も新しく作ってもらった魔術訓練所で、全属性を扱えるオーベル様から魔力を吸収し、放出する訓練を行っていた。
魔法が飛んできたら、両手をかざして手から吸収するイメージを思い浮かべる。魔力が上手く吸収出来ると、ブレスレットの石が一度、点滅するので、それで『魔力を吸収した』ということが確認できるのだった。
次に、地面に向かって両手を広げ、放出するイメージで吸収した魔力を出しきる。もともと訓練所は部屋が特殊な造りになっているので、成功してもしなくても、魔力を吸収してくれる。成功したかどうかは、この部屋の結界システムを作ったオーベル様にしか分からないので、そこは後で確認する事にしていた。
ずっと魔術訓練をしていると、色んな魔術を送ってきているというのが感覚で分かる様になってくる。オーベル様は、かなりランダムに、色々な魔術を仕掛けてきていた。
放出テンポが上がるオーベル様に、ついていける様に努力はしてはいるものの、なかなか上手くはいかなかった。
「最終的には、1秒以内に吸収して放出できる様になりましょう」
そんな事を言われたが、それが出来たら神業だと思う。普通の動作だって、もっと時間が掛かるのに‥‥‥。オーベル様は、いつも優しく丁寧に教えてくれるものの、実際に言っていることは、かなりのスパルタだった。
「このまま努力すれば、かなりいい線までいけるでしょう」
エリオット様へ私の事をそう言ったらしく、後からその話を聞いて嬉しくなった私は、更に努力を重ねた。
魔力圧縮の授業も、その後に受けるようになり、複数の魔術を溜めておく訓練も受けた。もしも戦闘になった時、相手から奪えばいいのだが、都合よく魔力を奪えるとは限らない。
必要な時に、事前に体内に魔力を溜めておけるかどうかは有事の際、かなり重要になってくる。その訓練もかなり練習して、全属性10魔術以上溜められる様になった。
そんな訓練を2週間以上続けて少し上達した頃、また城の見廻りを行う事になったのだった。