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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エクソシスト・オカルト

あやかし神社の怖い話〜夏の帰り道〜

作者: 地野千塩

「はぁ、推しと結婚したい」


 一人、部屋でつぶやく。


 この部屋の持ち主・香川夏子は、一見快活そうな女子高生だったが、部屋はヲタクのものそのものだった。


 机の横には「祭壇」がある。「悪魔の生贄花嫁〜生贄になりましたが悪魔に溺愛されてます〜」というコミックスのキャラクターのアクリルスタンド、フィギア、ぬいぐるみなどが飾られていた。今、女子高生の中で人気があるコミックスで、夏子もファンだった。特にヒーローのルシファンがスパダリで好きだった。


 他にも本棚には大量のコミックス、壁はポスターで埋め尽くされていた。とても勉強が出来る部屋ではなく、来年受験だというのに夏子は全く勉強していない。それどことか推しのルシファンで頭がいっぱいだった。ガチ恋し、結婚したいと思うぐらいだった。


 今は夏休みが始まったばかり。夏子は余計にルシファンに頭がいっぱい。ただ、親からは勉強しろとうるさく、「図書館に行く」と嘘をつき、出かける事にした。


 今年の夏は異様に熱い。外に出るとムッとした熱風に包まれた。蝉の鳴き声もうるさい。どこか木陰に行きたい。


 自然と住宅街から自然が多い北の方へ歩いていた。この辺りは田舎で、住宅街から一歩外に出ると梨畑や野菜畑、雑木林が広がっている土地になってしまう。夏子の親戚も農業従事者が多く、オシャレな商業施設はほとんど無い。こんな田舎ではろくに推し活出来ないと不満だった。


「あれ? こんな所に神社なんてあった?」


 梨畑の隣に赤い鳥居が見えた。


 周りは木々に覆われた一般的な神社。人影はなく、ちょっと不気味な雰囲気がある。見覚えがない。もっとも今は推しに夢中で神社なんて興味はないが。


「あやかし神社?」


 しかも神社の名前も変だった。鳥居の横にある石の塔にそんな名前が彫ってあったが、あやかし?


 あやかしというと漫画や小説で書かれるファンタジー世界のキャラだろうか。


「まあ、いいか」


 夏子は不審に思いながらもあやかし神社の鳥居を潜った。見事に人もいない。社務所も無人でお守りや絵馬も自動販売機で売っていた。怪しい、怪しいと思いながらも手水舎へ行き、手を洗う。


 木々に囲まれているせいか、あやかし神社の中は涼しかった。少々、蝉の鳴き声はうるさいが。手水舎の水も冷たくて気持ちいいが、突然、妙な吐き気に襲われた。


「うっ。気持ち悪い。もしかして熱中症か? 帰ろうか」


 あまりにも吐き気が強いので、本殿の方に行かず、そのまま後にした。


『はあ? 聖花のやつ悪霊祓いやってんじゃねーよ! 身体が動けねぇ! せっかくカモが神社にやってきたのに騙せないじゃねーか!』


 そんな声が聞こえたが、気のせいだろうか。無人の神社に人なんているわけない。夏子は、汗をかきながらも早歩きで神社を後にした。


 その帰り道。


 暑さで余計に気分が悪くなってきたが、電柱に変な看板があるのに目がついた。黒地に白と黄色の文字で書かれた妙な看板だった。フォントは昭和レトロ風でなんか怖い。


『死後さばきにあう』


 しかも、そんな事が書いてある。


 死後さばきにあうってどういう事?


 気分は悪いが、何だか怖い事を堂々と書いてあり、夏子は混乱してくる。


 こんな変な看板は他にもあり「悔い改めよ」「神のさばきは突然にくる」「私生活も神が見ている」などと書かれて怖い。勉強もせず、ルシファンに熱中している今を注意されている気がした。


 もし、アラサーぐらいになった自分が今の夏子を見たらどう思うだろうか。娯楽に熱中し、勉強もせず、親に怒られているなんて、だんだんと情けなくなっていた。


 こんな状況の夏子を好きになる異性はいるだろうか。自問自答するが、そんな存在はいないだろう。


 一見怖い見た目の看板を見ながら、ルシファンへの情熱も冷めてきた。


 同時に気分の悪さも解消してきた。空気は相変わらずムッと熱く、太陽の光が容赦なく皮膚に刺さってくるのに、頭は限りなく冷静になっていた。


 変な看板だ。ホラーとしか思えないが、夏子の心に何か変化を与えていた。


 そして、念のために近所の内科へ向かった。夏風邪が流行っているのか、待合室は混み合っていた。


 待合室で隣に座った女性は、目が見えないようだった。杖をもち、視線も少し普通の人と違うように見えた。まだ若い綺麗な女性だった。なぜか夏子に話しかけてきた。名前は福沢聖花という。どこかで聞いた事あるような名前だが、思い出せない。


「あなた、あやかし神社に行かなかった?」

「え? なんで分かるんですか?」


 聖花はあやかし神社に行った事を見抜いてきた。目が見えないせいか、逆に本当の事が見抜けるのだろうか。


「でも途中で気分が悪くなって帰ってきました」

「それはよかったわ。神社は願いが叶った後、代償を要求してくるから。一つ叶えて十個奪うのが神社だよ」

「だ、代償? 奪う?」

「よく考えてみて。なんで神社の神っぽい何かが無償で願いを叶えるの? そんな虫のいい話あると思う? 代償を要求してくる方が筋が通ると思わない?」


 確かに。


 逆になぜ神社が無償で願いを叶えると思い込んでいたのだろうか。やはり何の努力もしないで願いを叶えようなんてあり得ない話だ。それに今は推しについても興味が薄くなっていた。あれだけ好きだったのに、興味がない。


「ところで私、神社の帰り道、変な看板を見たんですが」

「変な看板? もしかしてキリスト看板でない?」


 待合室にいる間、聖花に看板の正体を教えてもらった。キリスト看板というもので、ネットでもネタにされているものらしい。意外と真面目なクリスチャンが活動して掲げている看板だそうだが。布教活動の一環らしい。


「そう、あなたキリスト看板見たのね。よかったわ。神社で願い叶えなくて。神様が守ってくれたのよ、きっとそうよ」


 なぜか聖花は泣くほど喜んでいた。聖花から神社の恐ろしさや本当の神様の事を聞くのは、また別の話。

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