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ざっくり化学

見渡すかぎり、電子の波

作者: ばーでーん

波について語ります(3/3)

電子です。

電子は波だ

一点の粒というより

三次元的な広がった粒で

それを確率波とよぶんだ


なぜ確率波かって?

実験結果だから認めるしかない

今日話したかったのはそんなことじゃない


電子の波を量子力学に従って

認めてしまえばわかるんだ

空間内で確率波をつくる

確率波は文字通りそのまま波だ



電子の波に

光の波が衝突し

進行方向が変わった光は

反射や吸収で色を与える


なぜ光の話かって?

実験結果を予測するためなんだ

今日話したかったことがこれからはじまる


電子の波は原子の配列に沿って

進行したり反射して

物質内で定在波をつくる

定在波には固有の周波数がある



「物質のなかの電子は

 幾つもの飛び飛びの周波数の

 定在波を描く」



物質に向け

いろんな光を照射する

物質内の電子の周波数の差と

共鳴した光が吸収される


なぜ色が違うかって?

実験結果だけど説明できるんだ

今日話したかったのはそんなことなんだ


電子の波は原子の配列に沿って

進行したり反射して

物質内で定在波をつくる

物質には固有の周波数ができる



電子の波は原子の配列に沿った

物質固有の定在波

周波数の差に共鳴する光が

吸収されて物質ごとに色が決まる



電子の波が量子力学に従うから

明日目を覚まし窓開けて

景色を見たらいろんな色がある

見渡すかぎり、電子の波がある



電子の波が量子力学に従うから

原子の配列は無限にあるから

色彩には無限の可能性がある

見渡すかぎり、電子の波がある



お読みいただきありがとうございます。

以下、本作に関する注釈です。よろしければでどうぞ。

注1:「確率波」

量子力学では、物質や光は波動のように振る舞い

ます。粒子(本作では電子)の波を波動関数といい

ます。波動関数は、場所によってプラスだったり

マイナスだったりする波です。正負があるので、

逆符号の成分が重なると弱まり、同符号が重なると

強まり、「干渉」します。一方、確率波は、

波動関数を自乗したもので粒子の存在確率密度

分布の波になります。自乗しないとマイナスの

確率があってあれこれ矛盾するのです。本文では、

粒子の波動関数とそれを自乗した確率波を区別

せずに、どちらも電子の波と一括りにしています。

注2: 「原子の配列に沿って」

物質とは1種か何種かの原子が配列した集合体です。

本作では、物質内に並んでる原子を行ったり

来たりする電子の波を例にしました。一方、

特定の原子だけに止まっているような電子の

波(特定の原子の原子核の周りにできた波)も

あります。前者は、物質全体に広がる電子の

波で「自由電子」、後者は、特定の原子にいる

「局在電子」といいます。自由電子は、半導体や

金属内で電流を流す電子です。局在電子は、

磁石のもととなります(詳細は割愛します)。

本作の主題の光については、自由電子も局在電子も

色に関係します。半導体の発光ダイオード(LED)は、

半導体の自由電子が発光します。ルビーは、

コランダムのアルミナの中のクロムイオンに

局在した電子が青緑の光を吸収して、透過光が

赤く見えます。

注3: 「定在波」

振動はするけど、山や節の位置が動かない波です。

一方、浜辺の波のように、波高が移動する波を

進行波といいます。電子が定在波なのは、電子の

エネルギーを一定とした場合ですが、ここでは

物質内で進行波だったら物質の外に波が出てしまう

くらいに理解ください。

ちなみに、水槽やお風呂の水面で手のひらを上下

させると、波が立ちます。手のひらの上下振動の

周期を調整すると、山と節の動かない定在波を

つくれます。つくりたい波の山の数によって周期を

変えます。周期はデタラメではだめで、波の

形状によって適切な周期があるはずです。

お風呂の湯船で実験する場合、湯船は少し広い

かも。お風呂に入りながらだと、波が身体で

反射されるので、波の形状も判定しにくいです。

そんな時は、湯船の壁にできる波を見てみます。

例えば、あなたの対面の壁にできた波は、右向きか

左向きに進行しているかも知れません。もしくは、

不規則な揺れかも。これを手のひらの振動周期を

調節してきれいに静止した波をつくってみましょう。

注4: 「いくつもの周波数の電子の定在波」

原子の配列を1次元として、波の山側を「+」、

谷側を「-」で表してみます。

+-+-+-+-+-+- 波(1)

は、隣接原子毎に符号が変わる波長の短い波です。

+++---+++--- 波(2)

は、やや長めの波長の波です。

ここでは物質全体に広がる自由電子の定在波を

考えています。

光や電子は波長が短い方がエネルギーが大きいです。

つまり、波(2)よりも波(1)の方がエネルギーは

大きいです。

波は3次元なのでもう少し複雑で多様な形状が

あります。定在波の形状で、波の周波数が違います。

*水面波では波長が長い方がエネルギーが大きい

です。これは、沢山の波が合成されるからです。

ここでの電子の波は一粒子分だけの波なので、

波長が短い波は振動数が大きいのです。

注5: 「幾つもの飛び飛びの周波数の定在波」

注4のように、定在波は、原子の並びに対する

様々な振幅パターンの定在波があります。

周波数は、定在波ごとに不連続な飛び飛びの値を

持ちます。物質内の電子は、各々のいずれかの

定在波になります。

今、電子が注4の定在波(2)を描いていたとします。

定在波(2)の周波数とそれとは別の定在波(1)の周波数

の差に等しい周波数の光がやってくると、電子は

光に共鳴して、定在波(2)から(1)に遷移します。

波(2)は波(1)よりもエネルギーが小さいので光は

吸収されます。反対に、波(1)から(2)に遷移すると

発光します。

あとは、量子力学に従って、各定在波とその周波数

を計算できます。つまり、物質毎の色を計算できます。

定在波(1)から(2)への遷移確率も計算できます。

蛍光では数十ナノ秒に一回の割合で遷移、

燐光ではミリ秒、という具合に。

注6: 「見渡すかぎり、電子の波」

ここでは、光にスポットを当てましたまが、

化学反応も、電子の波が関与します。光子の

エネルギーEは、プランク定数h、周波数νとして、

E=hνで与えられます。つまり周波数に比例します。

可視光の光子のエネルギーは、1.8〜2.7eV

(1eVは電子を1Vの電圧で加速したときの電子の

運動エネルギーで、1eV=1.6×10^(-19)J)です。

化学電池の電圧も可視光と同じく、1〜4Vくらい

なのは、化学反応に電子の波の遷移が関与して

いるからです。

生体内の化学反応も同様で、私たちは見るだけ

でなく、どっぷりと電子の波を生きているのです。

注7: 量子力学の観測問題について

この詩で、遷移前と後の定在波について述べました。

マニアックな疑問として、遷移している最中は

どうなるの?があります。驚くことにこの疑問は

解決されていません。

遷移は確率的に起きるが定在波の変形は、確率的に

ある一瞬で起きるとする「収縮説」、や

量子力学の確率解釈に従って世界が確率的に分岐する

「多世界解釈」などがあります。

私の意見は、相対論を考慮しないシュレーディンガー

方程式では、空間とは別に、時間軸ばかり特別扱いを

するので、定在波の時間変化を記述しにくいのでは

思います。相対論では、時間と空間は不可分です。

かと言って、相対論的量子力学で、この問題が

解決されたという話は聞いたこともありませんが、

この方面からのアプローチもあります。

この問題は、重要に思えますが、結局よくわかって

いません。なので、あまり気にしないでください。

実用的には遷移前と遷移後の定在波を計算できます。

そこから、何秒に一回遷移するかの確率を計算でき

ます。有難いことに遷移の最中を気にしなくても

良いように問題をモデル化できます。


以上です。マニアックな話しにお付き合いいただいた方、

本当にありがとうございます。そして、お疲れ様でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物質の中で電子が描く、幾つもの定在波。見渡す限りの、電子の波。タイトルが幻想的に感じられて、いいですね。 周波数の差に共鳴する光が吸収されて、色が変わるのですね…!光と色についてふれられ…
[良い点]  >色彩には無限の可能性がある   見渡すかぎり、電子の波がある  このフレーズがいいなぁと思いました。    無限に色は存在しているけど、人間が認識しているのは、人間の目でとらえる色の…
[一言]  世界は粒子と波でできている、ってことですね(大雑把)。  色の本質、もそうですが。  これまで、ばーでーん先生に学んで、物理をかじってきた(かじれた?)なかで、そんなふうに思いました。 …
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