賭けの始まり
短編で書いた『恋の賭け引き』の続きが気になる、というコメントをいただきましたので、連載版にしてみました。
一週間ごとに話が進む感じにしてみたので、ジリジリした感じを楽しんでもらえたら嬉しいです。
「生ビールおかわりー」
「おい中馬、ペース早いぞ」
「そう?」
「何か鬱憤でもあるのか?」
「まぁ、あると言うか、何と言うか……。あー、誰かあたしの事好きになってくれないかなー」
「な、何だ急に」
「この歳になるとさー、結婚しろってあちこちから圧力かかるじゃん? でももう今更誰かにときめくとか無理なんだよねー」
「……そんな事ないだろ」
「あるよー。社会人になって責任持たされるとさー、ドキドキして眠れないとか、ワクワクで仕事手につかないとか困るわけよ」
「それは、まぁ、わからなくもないが……」
「ドラマですら『次週に続く』系のやつは、一週間ハラハラに耐えられないから撮り溜めしてから観るし」
「メンタル大丈夫か?」
「だから、好かれる努力とか駆け引きとかすっ飛ばしてさー、『俺はお前が大好きだ!』って言ってくれる人現れないかなーって」
「初対面で?」
「え? あ、唐揚げ来た来たー。乃美、レモン絞るから先取っちゃってー」
「おー、さんきゅ」
「で、何だっけ?」
「だから初対面で好きになってくれる相手が欲しいのか、って話」
「あー、まぁめんどくさくなければ何でもー」
「それって見た目だけで好きになるって事だろ……? どうなんだそれは……」
「あたしの見た目じゃ無理と申すか無礼者ー」
「そうじゃなくてだな、見た目だけって極端な話身体目当てだろ? そういう恋愛は、ちょっとどうかと……」
「そんなの抜きにした恋愛なんて、小学生くらいまででしょー?」
「いや、まぁ、それもそうだが……」
「あたしの内面までわかってもらえるまで時間も労力もかかるじゃん? その上で『やっぱ合わない』とか言われたら、もう立ち直れないでしょ」
「そんな事ないだろ。お前は別にそんな悪い性格じゃないし……」
「恋愛においてはさー、良いヤツがモテるとは限らんのだよ。わかるかねチミ」
「……俺が前の彼女に『良い人過ぎてつまらない』って振られたネタまだいじるか……」
「とーにーかーく! あたしはあたしを好きになってくれる人を探すの! 邪魔だけはしないでね!」
「するか! ……そこまで言うなら、うちの会社のお見合いおばさんこと大国さんに話しとけばいいじゃないか、えぇ?」
「なっ! や、やめてよ! あの人こっちの話全然聞かないで勧めてくるじゃん!」
「そこに奇跡の出会いがあるかもだぞ?」
「……でも……」
「何だ? 口だけか?」
「むっかー! よーし! やってやろうじゃん! 一ヶ月であたしを好きになる人が見つからなかったら、大国さんに『誰でも良いからお願いします』って言ってやる!」
「な……! いや、お前、誰でもは流石に……!」
「その代わり一ヶ月であたしを好きな人を見つけたら、乃美に一つ何でも言う事を聞いてもらうからね!」
「……う……」
「お、何? 逃げる気?」
「逃げるかよ! やったらぁ!」
「よーし! んじゃ勝負の合図にかんぱーい!」
「……乾杯!」
読了ありがとうございます。
女は中馬ちゃん。
男は乃美君となりました。
……シテ……、許シテ……。
ここまでは短編版での展開と同じですので、続けて一週間後も投稿いたします。
どうぞお楽しみください。