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どれくらい走り続けただろうか。
ぼーっとしている中、いきなり足を止められたので思わず舌を噛みそうになった。
「……ばか。止まるなら、言って」
「我儘言うな。助けてやっただろ。……で、飯は?」
「食べさせてあげるけど、ちょっと待って欲しいの」
「あァ?騙したのか?」
「騙してない。でもお金を作りたいから、ちょっと待ってて」
「……逃げンなよ」
「あなたの足からはどう考えても逃げられないから安心して」
ちょうどいい所にあったジュエリー買取ショップに家から持ち出した宝石を売る。査定して貰うと思った以上の金額で売れた。……うん。これだけあればわたしが死ぬまでは大丈夫そう。
「……お待たせ」
「遅ェ。何してたんだ」
「宝石をお金にしてたの。わたし、子供だしまともなお店では売れなかったから……」
わたしの「子供」という単語に反応したらしい。
男は頭から爪先まで私をジロジロと見て、言った。
「ふぅん。テメェ、幾つだ」
「11歳。寿命は12歳だよ」
「……一年で死ぬのか」
「一年……。ううん。後、一ヶ月で誕生日なの」
そう。本当にわたしの猶予は無かった。
自分の身体のことは、自分が良く分かっている。
わたしは後、一ヶ月で死ぬ。理解している。
「だから死ぬ前に好きなことやりたかった。ずっと軟禁されたまま死ぬなんて、御免だもの」
「そうかよ」
男は興味無さそうに視線を逸らした。
あまり聞かないでくれて有難い。……詳しく話したいようなことでも無いから。