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「……おはよ、」
「……おう、元気か」
「昨日よりは、調子良いと思う」
「そうか。なら今日の目的は果たせそうだなァ」
それでももう、自分の足で歩けないくらいだったけど。でも、不思議と苦しくは無かった。
それよりも寒空に一晩中晒された黎一郎の体調の方が心配なんだけど……。
「で、何処に行きたいんだ」
「えっと、遊園地」
好きな人と遊園地でデートをしてみたい……わたしの夢だった。
「……こんな身体じゃ、どの乗り物にも乗れないかもしれないけど。雰囲気だけでも楽しみたいの」
「分かった。なら行くぞ」
言いながら、黎一郎はわたしを背負う。
「ちょ、ちょっと待って。黎一郎がちゃんと眠れてないでしょ。大丈夫なの……?」
「アホ。変な気遣いすンな。俺自身が今日一日はお前に付き合ってやるって決めたんだよ」
……ああもう、この人は。もうすぐわたしは死ぬっていうのに、これ以上あなたのことを好きにさせてどうするつもりなのか。本人が無自覚なのがタチが悪い。
ねえ、黎一郎。あなたはわたしがもうすぐ死ぬからこんなに優しくしてくれるの?
わたしがもっともっと長生き出来るとしても、あなたはわたしにこれだけ優しくしてくれる?
「おい」
「なーに」
「またくっだらねェこと考えてないだろうなァ」
「そうやって人の心を読もうとするの、やめて」
文句を言いながらも、強く背中に抱き着く。
ついでに背中にスリスリと頬擦りもしてやった。
「やめろコラァ。偉くテンション高いじゃねェか」
「だって、初めての遊園地だもの」
「はッ、まだ着いてすらいねェのに何言ってやがる」
「黎一郎だって、声が楽しそうだよ」
「あァ?お前のが移ったんじゃねえかァ?」
まだ着いていないのにテンションが上がってしまうのは仕方ない。
だって遊園地までは徒歩で5時間かかるのだから。目的地はまだまだ先なのだ。
それにわたしも黎一郎も遊園地なんて初めてだ。
ああ、今は遊園地じゃなくてテーマパークっていうんだっけ。どっちでも良いけどわたしは遊園地って呼び方の方が好きかも。
まあとにかく、わたしたち2人にとっては体験したことがない未知の世界なのだ。テンションの上昇が抑えられないのは当然のことなのである。
「あ、そこを左に曲がってね」
「なァ。さっきからずっと起きてるが、具合は大丈夫なのかよ」
「うん。調子はすごく良いよ」
無理をしている訳ではなく、本当のことだ。
もう自分に死が迫っているのを自覚しているのに、今日の私は何故かとても調子が良かった。
ひょっとしたら死の間際くらい楽にしてやろうという神様からの慈悲かもしれないな、なんて思った。
「ほら。もうちょっとで到着するから、頑張って黎一郎」
「はッ、仕方ねえなァ」
あっ。足取りが軽くなった。……もう、分かりやすいんだから。そういうわたしも鼻歌なんか歌ってみたりしてみる。
そして、ついに──────