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「……まァ、家が居心地が良い場所なんて、決まってねェからなァ」
男は何かを考えるように空を見上げた後、言った。
「助けてやるよ。だがこれだけじゃ足りねェ」
「……ちゃっかりしてるんだね。良いよ。助けてくれたら美味しい物いっぱい食べさせてあげるから」
「……言ったな?撤回は許さねェぞ」
「く、来るな!!」
お手伝いさんが叫んでも、男は止まらなかった。
というか叫ぶだけで何も出来ないんだね。……まあ、その方が助かるけれど。
「ほら、助けてやったから約束通り美味いモン食わせろよ」
「くっ!その人を返せ!」
「くそ!何とか取り返さないと旦那様に何を言われるか……!!」
気づけばわたしは男の腕に抱えられていた。
……それにしても、もっと普通に抱えて欲しい。俵担ぎって。
「……まだダメ」
「あァ?約束が違ェだろ」
「ここから逃がしてくれないと、食べさせてあげられないもの」
「成程なァ。ならとっととずらかるか」
カラン、と男が履いている下駄の音がひとつ響いた。
その瞬間、周りの景色が見えなくなる。
あまりにも男の足が速過ぎて、周りの景色が上手く映らないのだ。……下駄なのに。
「速い。酔いそう」
「黙ってなァ。喋ってると舌噛むぞ」
……それは痛そうだ。
わたしは黙って男に掴まっておくことにする。
「ま、待て!逃がすな!」
「ダメだ!速すぎる!」
お手伝いさん達の姿がどんどん遠ざかっていく。そんなに速いんだ、この人。しかも全くスピードが落ちる気配も無し。
……それより、わたしはいつまでこのままで居れば良いんだろう。
まあ、捕まるよりはマシだろうから、暫くは我慢しよう。