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「……走るの、って、はあっ……疲れる……っ」
今まで軟禁生活を送っていたせいで走るどころか歩くことも殆どしていなかったわたしが長時間走れる訳が無い。
それでも少しでも屋敷から離れたい一心で必死に足を前に進める。
脱出する際に鞄に自分の部屋にある私物を詰めてきた。宝石とかもあったから、売れば多分お金になると思う。
生活は暫く困らないだろうけど、何処まで逃げればわたしは捕まらずに済むのだろうか。
目的地が分からないままひたすら走り続けるのは、あまりにも苦痛だった。
「……うそ、」
暫く走り続けて辿り着いた先で、わたしの名前を呼ぶ声を聞いた。
「もうバレちゃったの……?」
結構遠くまでやって来たと思っていたのに。
わたしが死ぬ思いをして走ってきた距離は、屋敷の人間にとってはすぐに辿り着けるような距離だったらしい。
心が、折れそう……。
ダメ。ここで捕まったら一生部屋の天井を見て過ごして、部屋の天井を見て死ぬことになるの。
両頬をパチンと叩いて、喝を入れる。
「……逃げ、なきゃ」
足が棒になりそうだったが、無理矢理歩みを進める。
その時だった。
「いたぞ!」
「…………!」
見つかった……!
どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
わたしの足でこの人達から逃げ切れる訳ない……!
いや……!せっかく自由になれたのに、もうあんな生活に戻りたくない……!
ふらふらになりながらわたしは路地裏へと逃げ込んだ。ああ。せめてこの目立つ髪を隠せる格好をしていれば……。
後悔してももう遅い。
わたしは追い詰められてしまった。
「さあ、帰りますよ……!」
……今まで口も聞いてくれなかったのに。
こういう時だけわたしに話しかけるのか。
最後の抵抗として、わたしは無視を貫いた。
「……どうしますか?」
「旦那様に気づかれる前に保護しろ!無理矢理にでも連れて帰れ!」
「やめて、離して……!」
「くっ、暴れないで下さい!」
幾ら力を振り絞って暴れてもわたしは11歳。
大人の力に適うわけがない。
……もう、諦めるしかないの……?
「……あァ?何だテメェら。せっかく人がぐっすり寝てたとこ、起こしやがってよ」
わたしが諦めかけた瞬間、何処からか声が響いた。
誰だと思って視線を動かすと、そこにはゴミ山があった。
「……ねえ。ゴミって、喋るの……?」
わたしは思わずわたしを捕まえているお手伝いさんに聞いた。勿論、答えは返ってこなかったが。
そうこうしているうちにゴミ山がガサゴソと揺れて───
……ゴミ山から、一人の男が顔を出した。