ごのはち
───クソ。いい笑顔しやがるなァ。
馨の笑顔を見るという、目的は達成した。
しかし、コイツは何故そんなに不安になるのだろうか。俺は捨てるなんて言ってないが。
「どうして捨てられるなんて思った?」
「だって……海行く前にもそういう話になったじゃない……」
ああ、あの話か。あれはもう俺の中では終わったことになっていたが、コイツは未だにあのことを気にしていた、と。
「それに、黎一郎は自分のこと何も話してくれない……」
予想外の返答が来た。てっきりコイツは俺のことに興味が無いと思っていたが……。
「わたし、黎一郎のこと何も知らないの。だから不安だった。殺人鬼って言っても、何をしたかも知らないし……」
「……あのなァ。気持ちのいい話じゃねェぞ」
当たり前だ。人を殺したなんて話、簡単に口に出来るようなものじゃない。罪だぞ。
ホームレス仲間でそういう奴にも会ったことはあるが。まるで武勇伝かの如く、どうやって殺したか、感触はどうだったか等、聞いてもいないのに語りやがる。正直、不快でしか無かった。
……まあ、俺も殺したくて殺したし、殺したことを後悔もしていない。思い出したくもない記憶だが。
「わたし、知りたいの。黎一郎のこと。罪も、全部」
「俺のこと、ねェ……」
誰にも話すつもりは無かったし、死ぬまで自分の胸の中にだけ留めておくつもりだった。
どう考えても愉快な話では無いし、ましてや馨は子供だ。こいつが受け止めるにはあまりにも重すぎる。
だがコイツは説得したところで納得はしないだろう。寧ろどうして話してくれないのか、また捨てられるのではないか、とか何とか勝手に不安になるに決まっている。
「本当に、良い話じゃねえからなァ」
「……うん。それは、分かってる。でも黎一郎のこと、何でも知りたいの」
最後の警告も無駄だった。まあ、こいつも生半可な覚悟で聞いてはいないことは分かる。
なら、俺も覚悟を決めるしか、ねェか……。
「……分かった。少々、長くなるぞ」
「……うん」
俺は、ずっと封じ込めていたあの忌まわしい過去を、2週間前に出会ったばかりの子供に話し始めた……。
第六話に続く……




