ごのよん
しかし、そう決めたは良いが、贈る物が決まらない。何を贈ったら喜ばれるのかがまるで検討がつかない。
「アイツの好きな色の物とかなら……」
……ダメだ。馨の好きな色なんか知る訳が無い。
出会って2週間経つが、俺はアイツの好みどころか好きな色すらも知らなかったのだ。
そもそもたった1ヶ月だけの付き合いだと、軽く考えていた。
それがアイツを抱えて逃げたり、徒歩で半日かけて海を見に行って俺の目的は果たさずに帰ったり……足に怪我だってした。
俺は殺人犯だ。逃亡するならどう考えても荷物である馨は居ない方は明らかに楽なのだ。
確かに馨には金がある。アイツと行動を共にすることで、食べる物にも困らなくなったし、寝る場所も確保出来るようになった。
……だが、そんなものが無くても俺は生きてこられた。コンビニの裏のゴミ捨て場なら食べ物もあるし、寝床はダンボールに包まっていれば良い。食べ物が無くても、雑草を食って生きて来た。
まあ、確かに贅沢を覚えた今、前の生活に戻れるかと言われれば少し厳しいかもしれないが、それを考えても割に合わない。
更に馨が余計なこと(殺人)をしてくれたおかげで、余計に行動がしづらくなってしまった。
馨に「私も殺人鬼になったから一緒に連れて行って」的なことを言われたが、本来ならその時点で見捨てても良かった筈だ。アイツが捕まって死のうが俺には関係のないことなのだから。
とにかく、馨と行動を共にするのはメリットよりもデメリットの方が大きいのだ。それくらい、学がない俺にでも分かった。
それでも、どうして俺はアイツと一緒に行くと決めたのか。
もう、どれだけ自分の心を誤魔化しても無駄だったし、流石の俺でも気づいていた。
────俺は、アイツに情が湧いている。
それはもう、抗いようが無い事実だった。
多分、妹を見ているような気持ちだったのだろう。……俺にも、弟が居たから。
きっと、弟を思い出して、それで優しくしてやりたくなったのだ。悔しい話だが。
馨がこれを狙って俺に声を掛けたのだとしたら、してやられた。
まあそこまで考えずに目の前にいた俺に助けを求めたのだろうが……だとしても、アイツに振り回されているのが腹が立つ。
だからこそ、とっておきの物を贈ってやり、馨を笑わせてやろうと思った。
この2週間、アイツは笑ったことがない。
いや、本人は笑っているつもりなのだろうと思ったことは何度かあったが、ぶっちゃけると殆ど表情に変化が無い。……不気味な人形みたいだった。
アイツの初めての笑顔が、俺によるものだなんて……それはとても愉快なことじゃないか。
「……ぁ、」
暫く店内をぶらついていると……ある物が目に付いた。
「いいんじゃねえかァ、これ」
馨が気に入るかどうかは分からないが、似合う……と思う。少なくとも俺にはそう思える。
好みは幾ら悩んでも分からない。本人に聞いたことが無いのだから。
ならもう俺が似合うと思う物を贈り付けてやったらいいんじゃないかと思った。
変な物じゃないし、それで大丈夫だろう。……多分。
俺は「ソレ」を手に取り、会計へ向かった。
そういや、物の買い方も馨に教えて貰ったんだな、と思いながら。