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お風呂の時だけこの忌々しい鎖が解き放たれるのだが、お手伝いさんの見張り付きであり、逃げられることは出来なかった。
……そもそも普通にお風呂、見られたくないんだけど。
一度不満を告げてみたことがあったが、無言だった。
……しかし、今日はいつもと違った。
いつも通りお風呂を済ませて、お手伝いさんに鎖の鍵を掛けられる。
ここまではいつも通りだったのだけれど。
いつも通りと違ったこと。
それはお手伝いさんが鎖の鍵をわたしの部屋に放置してしまったことだ。
これは神様の導きなのだと、本気で思った。
今行動しないと、わたしは死ぬまでこのままなのだと思うと、わたしの身体は自然に動いていた。
「……良かった。届いた」
幸運にも鍵はわたしの手の届く場所に置いてあった。
使い方は分かる。いつもお手伝いさんがやってるのをちゃんと見てたもの。
それでもドキドキして、鍵が上手く刺さらなかったり、上手く回らなかったりした。
お手伝いさんが戻ってきてしまったら全ておしまいだ。急がないといけないという思いがわたしを焦らせ、手元を狂わせた。
カチ。
手応えがある。……開いた!
その瞬間、忌々しい鎖がわたし足から外れる。
わたしの身は、自由になったのだ。
お手伝いさんはまだ鍵がないことに気づいていない。でもいつ気づいて戻ってくるかも分からない。
慎重に、急いで行動しなければ。
わたしが家の中を歩けたのはだいぶ昔。
わたしの部屋が何処にあるかも、正直覚えていないが……。
「……ふーん。なるほどね」
窓の外から見える景色からしてここは2階のようだ。
お父様はわたしが2階から飛び降りるなんて思っていなかっただろう。
そもそも鎖を信頼していただろうし。
でも2階なら、カーテンを伝って降りられる。
落ちても多分、死なないだろう。
「死んだとしても、部屋に閉じ込められたまま死ぬより、空を見て死ねる方が幸せ……!」
わたしは下に見張りがいないことを確認し、カーテンを伝ってゆっくりと降りて行く。
「……、思ってたより、きつい……」
2階で良かったと心から思った。
外に出たことがないわたしが、カーテンを伝って降りられる体力がある訳が無かったのだ。
「……っ、きゃあ……!」
あと少し、というところでわたしはカーテンから手を離し、尻餅をつく。
本当に、2階で良かった。
「……外、なの……?」
夜なので視覚的には分かりづらかったが、空気が家の中とは明らかに違うように思えた。
「やった……これで、わたし……」
嬉しくて、もう少しこの空気をゆっくりと堪能したい気持ちはあったが、バレたら全てがおしまいだ。
それに空気はこれから幾らでも堪能出来る。ここから逃げ切ってしまえば。
わたしは屋敷の人達にバレる前に、出来るだけ遠くまで逃げなければいけないのだ。
「捕まったら死ぬまで軟禁……。そんなのいや。絶対に逃げ切ってやるんだから……」
自分に気合を入れるよう、独り言を呟く。
そして屋敷に背を向け、走り出した。