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最愛なる殺人鬼さまへ  作者: 有氏ゆず
第四話 殺人鬼との旅行
27/83

4-7





……凄い。どうなってるの。

ほんの少し眠っただけなのに、黎一郎は完全回復したらしく、また全力疾走を決めてくれた。

というか、昨日より速いような。


乗り心地が非常に悪い。でも喋ったら絶対に舌を噛むだろうし、そもそもわたしの為に急いでくれてるんだから、これくらいは我慢しよう。


声を出せない代わりに、わたしは黎一郎に力強くしがみつく。「ありがとう」の意味を込めて。




「……チッ!」


急に黎一郎が舌打ちをし、方向転換をする。わたしの行動がお気に召さなかったのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。

「どうしたの」という意味で、わたしは黎一郎の肩を叩く。


「サツが張ってやがらァ……!回り道になるが、良いなァ!?」

「だいじょ、ぶっ」


……また舌を噛んでしまった。ああ。喋るなって言われてたのに喋ったから。でも今のはわたしに返事を求めた黎一郎が悪いと思う。


「俺ァ大丈夫だから、お前は黙ってなァ……!」


急に道を変えて、迷子にならないのかと心配になったが、黎一郎なら何とかしてくれそうという謎の信頼はあった。

なので、わたしは黙って彼に身を任せ、心の中で祈った。




……かみさま。どうかお願いします。


わたしたちの愚かな願いを叶えて下さい─────















「……黎一郎!」


何時間経っただろうか。黎一郎はその間もスピードを緩めることなく走り続け、足にマメが出来、そのマメが潰れてしまったらしい。彼のお気に入りの下駄が、真っ赤に染まっていた。


「あァ?喋んなって、言ったろ……!」

「もう、もう良いよ……!血が出てる……!」

「ンなことより右見やがれ、海だぜ……!」






黎一郎に促され、右側を見る。



そこにはわたしがずっと見たかった景色があった。



でも……






「……警察、ここにもいる……!」

「そんなモン見るな、お前は海だけ見てなァ……!」


黎一郎はすぐにこの場を立ち去るつもりだったのだ。

ひょっとしたら、休憩の時点で自分の目的である料理について、諦めていたのかもしれない。


……馬鹿だよ。


自分に何の得も無いのに、わたしのためだけに、こんなボロボロになって……。この人は、何て馬鹿で、愚かで……優しい人なんだろう。


「はッ、海があまりにも綺麗過ぎて、泣いてンのかァ?」

「……うん」


あなたのせいだよ、と言いたかったけど……言わないことにした。




「最初で最後の海だ。しっかり目に焼き付けておけよ。……後悔しないようにな」

「……うん」


黎一郎に対して詫びることも、気遣うことも、彼はきっと望んでいない。

彼はただ、わたしに海を見て欲しかっただけ。それだけの為に、こんなボロボロになってまで連れてきてくれたのだから。


だからわたしは、最初で最後のこの景色を、しっかりと目に焼き付ける。

……それが、あなたの望み……なんだよね。




それほど長い時間は居られなかったけど、わたしは今日見た景色を、一生……


……ううん。死んでも忘れないだろうと、思った……。




第五話に続く……




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