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危惧していた通り、駅には警察が張っていたが、声をかけられる前に彼は駆け抜ける。
あまりの足の速さに残像が見えるレベル。これでスピードを落とさず走り続けられるんだから凄いものだ。
ガクガク揺れて乗り心地(?)は最悪だけれど。捕まるよりは遥かにマシなので我慢しよう。
「黎一郎。どこまで……っ」
どこまで逃げるの、と聞こうとして、思わず舌を噛んでしまった。……痛い。
「アホかァ、お前。舌噛むぞって忠告しただろ」
そうだったね。でもそういうそっちはよくそんなスピード出しながら走って、息も切らさず喋れるよね。本当に人間か疑うレベルだ。
「このまま目的地まで向かってやるよ」
「…………!?」
舌を噛んでしまったので上手く喋れなかったが、驚いた。
嘘でしょ。だってここから目的地まで、相当な距離があるんじゃないの。電車でだって後3時間くらい乗ってなきゃ行けないような距離じゃない。
それを歩いて行ったら……きっと一日はかかる、と思う。走ったとしても、半日くらい……?ああ、計算が出来ないからよく分からないけど、とにかく物凄い時間だっていうのはわかる。
でもそれは止まらずに走り続けた場合であって……そんなの流石に無理だろう。
「き、今日は、もうやめよう。また後日で良いから……」
わたしの命だってまだ余裕はある。別に今日行く必要なんて無いはずだ。
少なくとも、黎一郎に無理をさせてまで今日絶対に済まさないといけない用事って訳でも……。
「俺の顔が割れちまった」
「……え……」
「このまま俺と居ると、お前まで巻き込まれることになる。これが、俺にしてやれる最後のことだ」
……待って。じゃあ海を見たら、黎一郎はわたしを一人にするつもりなの?これからは一人で逃げるつもりなの?
「……ふ、ざけないで!!」
「馬鹿、舌噛むだろ…!」
わたしは思わず叫んでいた。黎一郎が何か言っていたがそんなのお構い無しだった。
「そんなの、どうでもいい!わたしとの契約は……!?」
「仕方ねェだろ!?お前も殺人鬼の仲間だって思われたくないだろ!!」
「でも契約は契約でしょ!?わたしの最期を看取ってくれるって、約束したじゃない!」
ここまで大きな声を張り上げたのは生まれて初めてだった。勿論彼のこんな大声を聞いたのも初めて。
そもそも喧嘩なんて、初めてした。彼と出会ってから言い合いは沢山したが、それらとは明らかに違う。
「約束したさ!だが守るとは言ってねェだろ!?」
「何それ!そんなのずるい!あなたのために出来るだけのことをしてきたつもりだったのに!」
「あー、うるせえうるせえ!!だってお前、このまま殺人鬼の仲間になるつもりかよ!?嫌だろうが!」
「もうなってるからいいの!!」
……わたしの言葉に、彼が足を止めた。
急に足を止められたので、びっくりして喉がぐっとなってしまう。
「……どういう意味だァ?それ……」
「そのままの意味だよ……」
「馨。お前、人殺したのか」
彼の問いかけに、わたしは一呼吸置いて、答える。
「…………………うん」




