4-2
海へ向かう為に電車に揺られて何時間経っただろうか。
徐々に変わり行く景色に、わたしはドキドキを隠せず、ずっと窓の外を見ていた。
「……ふーん。お嬢は海が目当てだったんだなァ」
「あ、バレちゃった……」
「おかしいと思ったぜ。お前、食に対する執着ねえからよ」
確かに料理をするのは好きだが、何かを食べたいかと聞かれればそんなに気にしたことはないかもしれない。だって、お腹に入れば全部同じだもの。
「……うん。わたし、ほんとは海を見たいの。昔読んだ絵本にわたしと境遇がそっくりな少年がいて、その少年は海に辿り着くの」
「へえ。少年と同じようなことがしたいのかァ。……で、それ、結末はどうなる?」
「………………海を見て、幸せになって……それで終わりだよ」
……嘘を、ついた。
最期の力を振り絞って海に辿り着いて、海を見てそのまま……亡くなってしまうのだ。
でも、見たかった海を見ることが出来て、しかもその海を見ながら死ねるなんて、少年はとても幸せだったと思う。その死に様に憧れたことは確かに何度かあったが、わたしはまだ死ぬつもりは無い。まだまだやりたいことだってある。
だけど、本当の結末は黎一郎には話せなかった。無駄に心配をかけたく無かった。
……いや、そもそも彼が心配なんてしてくれるだろうか。「ふーん、そうかよ」でさらっと流しそうな気も……。
「えっと。先に黎一郎の目的地に向かうから、その後……海を見に行っても良い……?」
わたしは黎一郎に自分の願いを告げた。黎一郎のお目当ての店からも海は見える。店から見れば良いじゃないかと言われてしまうかもしれない。
それでもわたしにとっては最初で最後の海になるだろう。だから出来るだけ近くで見て、ゆっくりと自分の目に焼き付けておきたかった。
「おう。良いぜェ」
しかしわたしの心配を他所に、なんと黎一郎は快諾してくれたのである。
「……良いの?」
「あァ、今の俺は気分が良いからなァ。海だって何処だって連れてってやるよ、お嬢」
「ほんと……?嬉しい……!」
食べたい物が食べに行けて、黎一郎もテンションが上がっているのだろうな、と思った。
とにかく約束は取り付けた。
「やっぱり無しなんて、ダメだからね」
「分かってらァ。海だろ海。好きなだけ見ていきなァ」
よし。再度確認もした。
やった、ついに海が見れる……!
わたしはテンションが上がるのを抑えきれずに、到着はまだかまだかと窓の外を見続けるのだった。