2-5
何処まで乗れば良いか分からなくて、とりあえず目についた駅で降りることにした。
「……凄かったなァ、電車」
「わたしは黎一郎が心配であんまり楽しめなかった」
「テメェ」
そうは言うけれど、実際は楽しかった。
そもそも今までが部屋でだけ過ごしていたから、外の出来事全てが楽しいと思える。
でも、それでも……そろそろ、眠い。
「……黎一郎」
「ン、どうしたァ」
「眠いの。抱っこして」
「はァ?」
「起きたら、好きなごはん……食べさせてあげるから……」
「俺はペットかよ」
「わたしに飼われてるんだから、そうでしょ……」
わたしが脱走したのは夜。その日に眠れた訳は無いから、私は丸一日起きていたことになるのだ。
11歳が24時間起きっぱなしで、歩きっぱなしなのだから、少しは気遣って欲しい。……あなたの体力が異常なのだから。
というか黎一郎は何で疲れないのか。
あなた、わたしを抱えて全速力で走ったりしたよね?体力どうなってるの……?
「おい、お嬢。ここで寝るな。……チッ、」
何か今は色々考えるのも疲れちゃった……。
「抱っこ……黎一郎はわたしの、ペットだもん……言うこと聞いて……」
「……はッ。散々俺にお説教してきたから中身は大人だと思ったぜ」
「……ばか。そんなわけ、ない……」
「見つからねェように適当に移動しておくから、寝てなァ。起きたら飯だからな」
「うん……ごめん……ね……」
続けてありがとう、と口にする前にわたしの眠気が限界を突破し、そのままわたしは意識を手放した……。
「……ごめん、か」
「いいとこのお嬢様が、ホームレスに言う台詞だとは思えねえなァ」
黎一郎は11歳にしては小さ過ぎる小さなお嬢様を抱えながら、ひとり呟く。
馨は追っ手を警戒して、ずっと起きていた。そしてようやく安全だと気が抜けてしまい、一気に眠気が襲ってきたようだ。
(……人殺しである自分に抱かれて安心するなんて、警戒心が無さすぎるにも程があるんだけどよ)
「……黎一郎、か」
与えられた自分の名を満足気に呟く。
(……名前をくれた礼だ。ゆっくり休みなァ、お嬢様)
しかしこの直後、黎一郎は改札の出方が分からず駅員と揉め、寝たばかりの馨を起こしてしまうのだった。
第三話に続く……