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「……どう?似合う……?」
「おー、良いんじゃねェか」
「……ねえ。あなたは後ろにも目がついているの?」
「あァ?ンな訳ねェだろ」
だったらどうして似合ってるかどうかが分かるの?
あなたはずっとわたしに背を向けてるっていうのに。
「ちゃんと見て。どうせなら似合うのを買いたいから」
「知るかよ。俺がファッションなんざ分かると思ってンのか?」
「……ご飯抜き」
「お嬢よォ、それは横暴だぜェ……?」
ぶつぶつ言いながらも彼はしっかりと私を見てくれた。
そんなにご飯抜きは嫌だったのか。……うん、これからも脅しとして使えそう。
「……おい。何か変なこと考えたかァ?」
「考えてないよ」
「そうかよ。でもやっぱ、俺には分かんねェ」
「変かそうじゃないかだけ教えてくれたら良いから」
「……………………変じゃねェよ。多分なァ?」
だいぶ間を空けた後、彼はニヤニヤと笑いながら言う。……ひょっとして、仕返しされた?
彼の言葉を信じていいものか迷うが、あまり同じ場所に留まりたくないし、とにかく早くこの目立つ髪を隠したい。
「……じゃあ、あなたを信じてこれにする」
目立たなければそれでいい。
わたしだってファッションセンスは無いし、何が良いか何て分かってない。そんなことで悩むなんて馬鹿らしい。わたしの時間は後少ししかないのだから。
わたしは最初に手に取った黒色のフード付きパーカーを購入することにした。
「ほら、あなたも」
「あァ?俺は要らねェ」
「ダメ。そんなボロボロな格好してたら、目立つでしょ」
「チッ……仕方ねえかァ……」
「男の人の服なんてわたしは分からないんだから、自分で選んで来て」
「俺も知らねェよ。マジで適当に選ぶからなァ」
ううん。ついて行くべきだっただろうか。
いや、ついて行ったところでわたしは何も出来ないだろうからここで待とう。
……5分も経たないうちに、彼は帰ってきたのだが。
「それ、で……いいの?」
「おう」
和風っぽい青い羽織、黒いシャツ、ジーンズ。
……何か変な組み合わせに思えるけど、わたし自身世間知らず過ぎて変だと言える自信が無い。明らかに目のついたものを適当に取ってきた感じ、なのだろうけど……。
「えっと、靴は、買わないの?」
「下駄で良い。これが足に馴染んでる」
それなら靴は良いか。正直彼のセンスを疑ったが、ここで時間を使うのは得策では無い。
さっさと購入して着替えて、ここから離れたい……。
「……!ちょっと、待って……!」
「……あァ?何だよ」
彼がそのまま外に出ようとするので慌てて引き止める。
「お金を払わないと、泥棒になっちゃう」
「はァ?何だそれ。めんどくせえなァ」
「だめ。これ以上罪を増やしたいの?」
正直、殺人以上の最悪な罪なんて無いとは思うが、罪は罪だ。それに今はわたしも行動を共にしている。余計なトラブルは避けたい。
「物の買い方、教えてあげるから。ちゃんと見ててね」
……と言っても、わたしもテレビの見よう見まねなのだけれど。でも店の人に何も突っ込まれなかったし、恐らく間違ってはいないのだろう。
「……随分、奇抜に見える」
「お前は地味だな」
「目立っちゃいけないんだから、これでいいの」
無事に服を購入し、すぐに着替える。そしてお互いの格好を見て、素直な感想を述べた。
「髪、目立ってンぜ」
「……あ。そうだった」
髪が目立たないようにフードを被る。
……うん。これで問題無さそう。
とりあえず出来るだけ遠くに行きたい。わたしと彼は人生初の電車に乗ることに決めた。
……大丈夫。知識だけは、ある。少なくとも彼よりは。
わたしは気合を入れるように頬をパチンと叩いて、駅へと向かうのだった。