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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第七章 魔界進行作戦
80/84

08 僕の初めては、ディセルさんに予約済み

            ◆


「ハァ……まさか、あなたみたいな可愛い子が、男の子だとはね」

 なんとも不本意そうなため息を吐きながら、淫魔女王ウェルティムは僕を値踏みするようにジロジロと見てくる。

 そちらにとっては不本意だろうとなんだろうと、知った事じゃない!

 そんな事より、以前戦った時に女の子にされてしまった「性転換光線(TSビーム)」には気を付けなくちゃ!

 だけど、いつでも回避できるように間合いを取る僕を見て、ウェルティムは小さく笑った。


「ウフフ……ひょっとして『性転換光線』を警戒してる?」

「それはまぁ……以前、酷い目にあったしね」

 そう、僕は……というか、僕達は前にウェルティムと戦った時に、奴の性転換光線で男になったディセルさんに、女の子にされた僕がレイプされそうになるという、どっちの心にも大きな傷を残しかねない事案が発生する寸前までいった。

 まぁ、僕達がお互いを想う気持ちによって、最悪の事態は避けられたけど、また女の子にされたりしたらかなわない!


「そうね、前に戦った時は、効いてないと思って驚かされたわ……でも、そんなに警戒しなくてもいいのよ?あなたに、『性転換光線』は使うつもりはないもの」

「どうだかね……油断は禁物でしょ」

「あら、本当よ。だって……」

 その時、ウェルティムの瞳が、妖しい光を放つ!


「男の子のままじゃないと、『魅了』できないでしょ♥」


 ウェルティムの言葉が僕の耳に届くと同時に、彼女に変化が現れる!

 いや……正確には、ウェルティムを見つめる僕の方に、変化があったと言うべきか!?

「あ、ああ……」

 ほんの一瞬前まで倒すべき敵だったはずなのに……なんで、こんなに彼女が輝いて見えるんだろう……。


「ウフフ……どんな気分かしら、アムール?私に、ひざまずきたくなったかな♥」

 挑発的に笑い、足を組み替えるウェルティムが、ひどく魅力的に思えて胸が高鳴る。

 彼女の言うとおり、すぐにでもその足元に膝をついて、突きだされた足に頬擦りしたくなるような……そんなムラムラとした衝動が僕の内で沸き上がってきた。

 くっ……これが、淫魔女王の『魅了』!

 以前、男にされたディセルさんは、こんな欲望の嵐に耐えていたのか!


「無理はしない方がいいわ。それに、あなた……まだ女を知らないでしょ?今なら、あの獣人のお姫様に変わって、私が優しく手解きしてあげるわよ♥」

 妖艶な唇に、見せつけるような淫らな動きで舌を這わせながら、慈母のごとき笑みを浮かべるウェルティム。

 扇情的でありながら、安らぎを誘うその姿は、僕の心をジワジワと乱してくる。

 だけどっ!


「僕の初めては、ディセルさんに予約済みなんでね!」

 彼女との約束を強く想いつつ、僕は戦いの前に念のためと渡された、ある物を取り出した!


「ん?」

 ウェルティムが、僕の手にある物を見て、怪訝そうな声を漏らす。

 僕が取り出した物……それは、一枚のハンカチ!

 だけど、当然ながらただのハンカチじゃない。

 これは、ディセルさんが肌身放さず身に付けていた、彼女の香りをたっぷりと含んだハンカチなんだ!

 僕はおもむろにそれを顔に当て、思いきり深呼吸をした!


 ……ああ、この場にいないはずの、ディセルさんを感じる!

 そんな想いと共に、ウェルティムの魅了によってぼやけていた思考が、一気にクリアになっていった!

 よし……淫魔女王の必殺技、敗れたり!


「なっ!まさかそんな……」

 さすがのウェルティムも、こんな手段で自慢の魅了を破られるとは思ってなかったのか、驚きの表情を浮かべて戸惑っている。

「女装癖に加え、その歳で匂いフェチだなんて……どこまで尖るつもりなの!」

 ……なんか、違う意味で驚かれみたいなんだけど、へんな誤解はしないでほしいなぁ。


 でも、なんにしても最大の脅威である、魅了は破ったんだから、今度はこちらの番だ!

 そう思って、魔法の詠唱を始めようとした、ウェルティムがニヤリと笑うのが見えた!

 嫌な予感が走り、僕はほとんど反射的にその場から飛び退く!

 それと同時に、今まで僕が立っていた場所をギラリと光る剣撃が通りすぎていった!

 なっ、彼等は……!?


「フフフ、私はあまり戦闘が得意じゃないから、大魔王様にお願いして下僕(ボディガード)をもらったのよ」

「はい!ウェルティム様は、俺達が全力でお護りします!」

 僕とウェルティムの間に、立ち塞がった一団。

 それは、前の戦いの時に奴に魅了され、連れ去られていったはずのA級ハンターチームのひとつだった!


「くっ……皆さん、しっかりしてください!」

「ふん!しっかりするもなにも、俺達は正気だ!」

「いや……でも、チームの女性メンバーが、男の人にされたりしてるじゃないですか!」

「ウェルティム様にお仕えするためなんだから、仕方ないだろうが!」

「その通りよ!いえ、むしろウェルティム様にお仕えできるようになったんだから、男にしてもらえて幸運だったわ!」

 感極まったように涙を流しながら、ハンター達はウェルティムに感謝の言葉を述べている。

 その異様な光景に、僕も言葉を失ってしまった。

 ダメだ、全然話が通じそうにない……。


「ウフフ、いい子達ね。さあ、あのアムールをたっぷりと調教してあげたいから、速やかに捕らえなさい」

「おお……ウェルティム様に調教してもらえるなんて、羨ましい!」

「この幸せ者め!おとなしく、縛につけ!」

 命令された喜びと、僕への嫉妬を滲ませながら、ハンター達は一斉に遅いかかってきた!


 僕の魔法をまったく警戒していない……というか、魔法使いの小僧なんて、魔法を使われる前に押さえてしまえばいいといった感じの動きである。

 その戦術は正しい。

 ただ、こういう事態のために備えていたのは、こちらも一緒だ!


 僕を捕らえようと、伸ばされた手が掴みかかる瞬間!

 加速した僕はそれをかわして、ハンター達の真横へと移動した!

「は?」

 急な動きに対応できず、間抜けな声を漏らしたハンター達に、僕の電撃魔法が直撃する!

 小さな悲鳴をあげて、バタバタと倒れ伏すハンター達!

 すいません、あとでちゃんと回復させますから!


「な、何よ今の動きは!?」

 驚愕したのは、ハンター達だけじゃなく、ウェルティムも同様だったみたいだ。

「格下相手ならともかく、A級ハンターの戦士以上に速い魔法使いだなんて、あり得ない……なんなのよ、あなたは!」

「なんなのよって……単に、身体強化魔法を使っただけだよ」

「そ、そんな物を使う素振りは見せなかったじゃないの!」

「それはそうさ……常時発動(・・・・)させてるんだもん」

「はぁっ?」

 僕の答えを聞いた淫魔女王は、その地位にあるまじき表情と共に、間の抜けた声を発する。

 でもまぁ、それも仕方ない。

 ふつう、そんな事をする人はいないもんね。


「な、なんのためにそんな事を……」

「もちろん、ディセルさんのために!」

 そう、僕は少し前からどんどん強く、そして速くなっていく彼女の動きについていくために、常に身体強化魔法を使用していた。

 幸い、僕には膨大で有り余るほどの魔力が備わっており、やがてそれは意識しなくても発動できるようになって、今ではすっかり当たり前の状態になっていたのだ。

 だけど、それでも本気になった彼女には追い付けないのだから、さすがはディセルさんと言うべきか……。


「……信じられないわ。あなた、可愛い顔して相当な変態じゃない」

「し、失礼な!」

 せめて、愛する人のために努力したと言ってほしい!

 だけど、なにはともあれウェルティムの護衛についていたハンター達は、無力化できた!

 これで、奴を護る者はもういないはず!

 僕がウェルティムにトドメを刺すべく、魔法の詠唱を開始する!

 だけど、それと同時に奴も何かのアイテムを発動させた!


「アハハハハッ!真の切り札は、とっておくものね!出でよ、『反魔法(アンチマジック)魔動兵(ゴーレム)』!」

 ウェルティムの呼び掛けに応じて、発動したアイテムから浮かびあがった召喚魔方陣を通り、ゆっくりと巨大なゴーレムが姿を現す!

 しかし、反魔法とは……!?


「フフフ、大魔王様より頂いたこのゴーレムには、あらゆる属性の魔法に対して、完璧とも言える耐性が付与されているわ!まさに、対魔法使い用の無敵のゴーレムよ!」

 またあの大魔王、とんでもない物をお出ししてくれる……。

 本当に、嫌がらせみたいな真似ばかりだけど、的確にこちらと相性の悪い相手をぶつけてくるな。


 しかし、本当にそんなゴーレムはあり得るのだろうか?

 僕は試しに炎魔法と電撃魔法を、ゴーレムに向けて放ってみる!

 しかし、発生した炎も電撃も、傷ひとつ付ける事もなく、小さな音をたてて消えてしまった。

 それを見て、ウェルティムは「ムダ、ムダ!」と嘲るように笑う。


「いくら常時身体強化魔法を使えても、所詮はひ弱な魔法使い。魔法が通じない、このゴーレムに勝てるはずもないわ」

 勝ち誇ったウェルティムは、ゴーレムの肩に腰掛けながら僕を見下ろしてスッと手を伸ばす。

「降伏するなら今のうちよ?なんなら、後でディセルも捕らえて、二人一緒に私のペットにしてあげてもいいわ」

 ……そんな誘いに対して、僕の答えは決まっている!


「悪いけど、お断りだ!」

 僕は密かに続けていた詠唱を済ませ、吼えると同時に完成した魔法を発動させた!

「ふん、馬鹿な子ね!精々、無駄にあがくといいわ!」

 そう僕を罵ると、ウェルティムはゴーレムを盾にして、その背後に身を隠す!

 あらゆる魔法が通じないと言っていたけど……これならどうだ!


加重展開(ブーステッド)無属性魔砲(・ゼロカノン)!」


 僕の正面に、何重にも展開した魔法陣を経由して、増幅された純粋な魔力の塊が、光となって放たれる!

 それは、竜の咆哮を越える轟音と衝撃を持って、魔法が通じないはずのゴーレムを粉々に打ち砕いていった!


「そ、そんな……ギストルナーダさまあぁぁぁっ!」

 大魔王の名を呼ぶ断末魔の声を響かせ……淫魔女王ウェルティムは、砕けたゴーレムと共に「無属性魔法」の光に飲み込まれていく!


 やがて……僕の放った魔法の光が終息した頃には、ゴーレムの姿も、ウェルティムの姿も跡形もなくなっていた。

 勝った……んだよね?

 前に、倒したはずのウェルティムに逃げられた経験から、油断なく周囲を警戒していたけれど、今回は復活する気配はないかな?


 そして、ふと気がつけば倒れていたハンター達の内、性転換光線を受けて男になっていたハンター達が、いつの間にか女性に戻っていた。

 これは……ウェルティムの魔力が完全に尽きた証拠か。

 そこでようやく勝利を確信した僕は、大きく息を吐き出した。


 勝った……。

 でも、なんだろう……わずかな喪失感が、僕の胸に燻っている。

 これも、ウェルティムに魅了を受けた後遺症のようなものなんだろうか?

 この小さな空虚さを埋める物を求めた時、僕は無意識にディセルさんのハンカチを再び顔に当てた。


 彼女の香りが、胸の喪失感を癒してくれる。

 と同時に、ディセルさんに会いたい、彼女を抱きしめたいという欲求がムクムクと膨らんできた。


「行かなきゃ……」

 呟いて、僕は倒れてるハンター達の側に回復薬を置くと、この城の奥を目指して歩を進める。

 なぜなら、ディセルさんもその場所を目指しているだろうから。


「すぐに行きますからね、ディセルさん」

 何か通じ合う物を感じて、僕がつぶやいたその時、どこかで彼女も僕を呼んでくれたような気がした。

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