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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第一章 出てくる場所が違くない?
8/84

04 『レギーナ・レグルス』なんてどうかな?

           ◆◆◆


「なっ!そ、それは本当かっ!」

 獣人族の王サーイーズは、自身の元に届いた報告に思わず玉座から身を乗り出した!


「は、はい!ディセル様を捕縛……迎えにいかれたヘイル様とドストル様が……ボロボロの状態で戻ってこられました」

「ボロボロ……だと?」

「はっ……『上手に焼けました!』と言わんばかりに、こんがりと焼かれ、下着一枚の哀れな姿で帰還なされたとか……」

 それを聞いたサーイーズは、ドサリと体を玉座に預ける。

 この国のトップとも言える戦士達が、揃いも揃って続けざまに敗北する……その事実は、彼の心を揺るがせるには十分な衝撃だった。


「……炎によるダメージがあったと言ったな」

「は、はい……こんがりと焼けている所から、或いは……」

 頷く部下の言葉に、サーイーズは眉間に皺を寄せる。

 王子達のやられ方からして、撃退したのがディセルの仕業ではないという事がわかるからだ。

 おそらくは……ディセルに手を貸しているという、『アムール』とかいう人間の魔法使い。

 だが、そいつはいったい何者だというのか?


 ディセルに雇われたとしても、次々と獣人族の戦士を返り討ちにするほどの魔法使いなど、早々いるはずもない。

 噂の聖剣の勇者でもあるまいに、人間相手にこうも思惑を邪魔されたサーイーズは、苛立たしげに玉座の手摺に拳を打ち付けた!


「くそっ……あまり時間が無いというのに……」

「へ、陛下!」

 思わず呟いた所に、慌てた様子で一人の兵士が駆け込んでくる。

 こんな時になんだと思いはしたが、それを表面に出さずに「どうした?」とサーイーズは兵士に促した。

「そ、それがご来客の方が……」

「客だと?予定に無い者が来たなら、待たせておけば……」

 そこまで言いかけて、獣人の王はハッと気がつく。

 普通の来客ならば、言われなくても待たせておくだろう。

 しかし、この兵士の慌てぶりは、普通ではない客(・・・・・・・)が来たことを物語っているではないか。


「おやおや、何やら取り込み中でしたかな?」


 駆け込んできた兵士が来訪者の名を告げる前に、その男はツカツカと玉座の間へ歩を進めてくる。

 白を通り越した血色の悪い青白い肌、そんな不健康な肌色に反するような赤い瞳、そして薄く笑みを浮かべる口元からは、長い犬歯がちらりと覗く。

 ピシッとした、夜の闇を切り取ったような黒の衣装に身を包むその姿に、サーイーズは即座に玉座から降りると、片膝をついて頭を垂れた。


「こ、これは『吸血鬼王(ロード・ヴァンパイア)』スウォルド・ミケロガロ様……」

「フフフ……そう(かしこ)まらなくとも良いですよ、獣人王殿。同じ『王』ではありませんか」

 何が同じな物か!と、内心で毒づく。

 こちらは中立から寝返った新参者、対して向こうは邪神によって遣わされた魔王の幹部である四天王の一人だ。

 誰がどう見ても、立場の差は歴然としている。

 現に、スウォルドは頭を下げているサーイーズに立ち上がれと声をかけることなく、彼を見下ろしたままだ。

 屈辱感はあれど、現状を鑑みた獣人王は、その姿勢のままで来訪の用件について尋ねた。


「実は、私に献上してもらえる約束になっていた愛玩動物(あなたの娘)を、いただきに参った次第です」

(やはり、その事か……)

 心の内で舌打ちをするサーイーズ。

 魔族サイドに付くと決めた時、一人反対したディセルを追放した。

 だが、その後にどこから聞き付けたのか、「要らぬ娘なら自分が貰う」と訴えてた来たのが目の前の吸血鬼王だ。

 面倒な事だと思いながらも、四天王への覚えが良くなると了解してしまったが、それがこんな形で足を引っ張る事になるとは……。


「なんでも、王女を捕らえにいった王子達が、返り討ちに

あったとか?」

 その言葉に、サーイーズがわずかに動揺する。

「そ、それは……」

「ああ、責めている訳ではありませんよ?どうやら、かなりのじゃじゃ馬のようですし、そういう娘を調教(しつける)のは好みですからねぇ」

 ククク……と、酷薄な笑みを浮かべながら、スウォルドは肩を揺らす。

 娘を差し出す親の前であるのに、そのサディスティックな雰囲気を隠そうともしない目の前の魔王四天王の一人に、改めてサーイーズは薄ら寒い物を感じていた。


「まぁ、実を言えば最近、聖剣の勇者とやらがの活躍で人間の反撃が活発化していましてね。魔王様から、調子に乗った人間を少しばかり狩ってこいとの指示を受けているんですよ」

 ふぅ……と小さくため息を吐いて、スウォルドは大袈裟に困ったものだといったリアクションを取る。

「なので、人間の街をひとつ滅ぼすついでに、娘さんを頂戴しようと思い、一言告げておこうかと参上した訳です」

「お、お気遣い、ありがとうございます。では、幾ばくかの情報を……」

 ディセルが雇っていると思われる、人間の魔法使いについてサーイーズが話そうとしたその時!

 唐突に部屋の扉が乱暴に開かれ、一人の男が踏み込んで来た!


「ルド!?」

 獣人王の呼び掛けを無視し、乱入してきた第二王子は、スウォルドの前まで進むと、その場に膝まづく。


「スウォルド様!ディセルを迎えにいくのならば、どうか私も同行することをお許し願いたい!」

「ルド!突然、無礼であろう!」

 嗜めようとしたサーイーズを、スウォルドは手で制する。

「ほぅ……なぜです?」

「恥を忍んで言わせていただければ、俺は……ディセルを捕らえに行った際に、アムールという人間の魔法使いに敗れました。なればこそ、このままではいられません!」

 つまり、リベンジをしたいから自分も連れていってほしいと、訴えているのだ。

 一応、スウォルドは魔王からの命令を受けて動いている身であり、ルドの身勝手な申し出など受ける必要は微塵もない。

 なんなら吸血鬼王の気分次第で、処されてもおかしくはない状況だが……スウォルドは「まぁ、いいでしょう」と頷いて見せた。


「彼女の元まで、道案内も必要ですからね。その辺はよろしく」

「はいっ!ありがとうございます!」

 ルドは這いつくばるように深々と頭を下げ、感謝の意を表す。

 うまく話がまとまったと見たサーイーズが割って入り、準備ができるまでしばらく休憩を……と促して、二人は部屋から出ていった。

 部下達もサーイーズ達を追って退出した玉座の間に、ひとり残されたルドだったが、頭を下げた体勢のままククク……と笑う。


「待っていろ、アムール!お前は、俺が……」

 凄惨な笑みを浮かべながら、ルドはギラギラと瞳を光らせていた。


           ◆◆◆


「~♪~~、~~♪」

 珍しく、僕の隣でディセルさんが鼻唄なんかを唄っていた。

 ちょっと浮かれすぎな気がしないでもないけれど、今日は待ちに待った彼女が正式なハンターの資格を得られる日だから、それも無理もないか。


「ご機嫌ですね、ディセルさん」

「それはそうさ。ようやく一人前だからね」

 満面の笑顔で答えたディセルさんは、ジッと僕の顔を見つめる。

「それに、これで君と正式にパーティを組めるとなると、浮かれるなという方が無理でしょう?」

 そんな事を言いながら、アムールは嬉しくないのかい?などと尋ねてきた。

「そ、それは……ボクも嬉しいです」

「うん、良かった♪」

 ニッコリ微笑んだ彼女は、再び鼻唄を口ずさむ。

 んもう……そんなにストレートに聞かれたら、照れちゃうよ。

 嬉しさと恥ずかしさで火照った顔を冷ますように、僕はこっそりと深呼吸をした。


「ところで……正式なパーティとなると、チーム名なんかも必要になるよね?」

「あ、そうですね」

 ディセルさんに聞かれて、僕も思い出したように頷いた。

 確かにどのパーティでも、チームに名前はつけている。

 けれど、僕はいままでソロだったから、そこに頭が回ってなかった。


「うーん、ボクはあまりこういうのが得意ではないんですけど……ディセルさんは、何かいい名前の候補とかありますか?」

「そうだねぇ……『レギーナ・レグルス』なんてどうかな?」

「聞きなれない言葉ですね……どんな意味なんですか?」

獣人族(わたしたち)の言葉で、『姫と王子』といった所かな」

 そ、それはまた、なんとも乙女チックというか……。

 でも、ディセルさんは本物の王女様だし、ある意味ぴったりかもしれないなぁ。

 僕は、王子には役者不足だろうけど。


 そんな事を考えていたら、ディセルさんがひょっこりと僕の顔を覗き込む。

「ど、どうしたんですか?」

「……うん、やっぱり君は『姫』にぴったりの可愛さだね♥」

 え?

 そっちが僕ですか!?


 意外な理由に戸惑っていると、急にディセルさんが僕を抱えあげた!

「きゃっ!」

 姫なんて言われて、つい女の子っぽい声が出てしまう!

 いわゆる『お姫様抱っこ』の体勢で僕を持ち上げたディセルさんは、「急ごうか」と声をかけて人通りのある路地を駆け出した!

 これじゃ、本当に『姫』が僕で、『王子』がディセルさんみたいだ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ディセルさん!慌てなくても、ギルドは逃げませんよ!?」

「なぁに、一刻も早く君と正式にパーティを組みたいだけさ」

 うう、そんな言い方ズルい……僕だってそうなんですから、何も言えなくなっちゃいますよ。


「アムール、もっとちゃんと掴まって」

「え、でも……」

「いいから」

 むぅ……促されて僕は、彼女に密着しながら首に腕を絡める。

 安定性と共に、ディセルさんとの一体感が増した感じがして、なんだかドキドキする。

 街行く人達から、微笑ましい物でも見るような目で見られながら、僕達はギルドの建物を目指して駆け抜けていった。


 この街に、危険な影が迫っていることも知らずに……。

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