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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第六章 大魔王の策略
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10 アムルズ少年の、なれの果てだと言っている

「大魔王……ギストルナーダ!」

 皆の前で名乗った、その人物は……み、見えない!

 しっかりと確認する前に、捕まってしまっていて、僕は大魔王の姿を見ていないのだ……。

 おまけに麻痺毒まで食らってしまい、僕はどんな奴なのかわからないまま捕まるという、ちょっと情けない状態だった。


「あらあら、大魔王様ばかり目立ってしまって……妬けてしまいますわ」

 え?

 こ、この声は……!?


「フフフ……獣人王国では、世話になったわね。また会えて、嬉しいわ」

 聞き覚えのある声と共に、捕らえられた僕の前に悠然とあらわれたのは、蠱惑的で露出の高いコスチュームに身を包んだ、悪魔的な美女!

 忘れるハズもない、ディセルさんの故郷を惑わした、男を魅了して従える淫魔の女王ウェルティム!

 でも、確かに獣人王国では逃げられたけど、まさかこんなに早く復活してくるなんて……。


「ウフフ、意外そうな顔をしているわね。まぁ、ここまで素早く復活できたのも、大魔王様のお力があってのものだけどね」

 バチバチと激しいウインクをギストルナーダに放ってアピールしながら、ウェルティムは妖艶に微笑んだ。


「……なるほど、我の事をギストルナーダ様に伝えたのは、お前だったのだな、ウェルティム」

「そういう事よ、裏切り者!」

「まぁ、ガマスターは自分の欲求のために、アンデッドにまでなった奴だ。裏切ったとしても、不思議は無いだろう」

「フッ……さすがは大魔王様、よくわかってらっしゃる」

 ガ、ガマスターさん、信用がないなぁ……。

 しかも、こんなことを言われてるのに、当の本人は平然としてるのがちょっと凄い。

 ……だけど、魔王達が話に夢中になっている、今こそチャンスだ!


 僕は、自由が奪われている状態からの脱出を図るべく、口の中でモゴモゴと、魔法の詠唱を始めた!


「……ん?」

 しかし、声を抑えて行っていた魔法の詠唱は、ギストルナーダに見咎められてしまう!

「ほぅ!まだ、そんな小細工ができるのか!小型の竜でも、即座に動けなくなる麻痺毒なんだがな」

「ぐっ……」

 ば、ばれたか……。

 驚いたような、呆れたような大魔王の言葉に、僕は急ぎ魔法を完成させようとする!

 だけどっ!


「やれやれ、怖い子供だな。なら、もう少し盛るしかあるまい」

 そう言うと、詠唱が終わるよりも早くギストルナーダは口の端をニヤリと歪め(そんな気配がした)、再び僕はチクリとした小さな痛みを感じた!

 同時に、僕の体は完全に意識以外の体の自由がなくなってしまう!


「あ……うぁ……らぁ……」

 呂律が回らなくなった声が、呻き声のように漏れ落ちる。

 ダラリと半開きになった口から垂れる舌は、その先端まで麻痺してしまい、タラタラと零れる唾液が口元を汚していった。

 涙で歪む視界に、僕の酷い姿を心配そうに見つめるディセルさんの姿が見える。

 ああ……足を引っ張ってしまって、本当にごめんなさい……。

 情けない自分に、悔しい気持ちとさらなる涙が込み上げてくる。

 だけど、本当に最悪な事態は、ここからだった!


 ……体が弛緩しきって動かせない中、残っている意識は僕の体のある異常を感じていた!

 それは……。


 チョロ……チョロロロロ……。


 今よりも、もっと子供だった頃、何度も感じたあの感覚……。

 股間を濡らし、太ももを這って爪先へと向けて流れていく、生暖かい液体の感じ……。

()……ひぁ(いやぁ)……」

 僕の麻痺した体は……衆人環視の前で、無様にもお漏らしをしてしまっていた……。


           ◆◆◆


 大魔王ギストルナーダ。

 そう名乗った魔族らしき男は、いまいちその肩書きに相応しくない、軽い雰囲気の優男といった印象だった。


 身長だって、ラグロンドよりもだいぶ低いし(それでも、百八十はあるようだが)、そもそも格好からして、魔族の頂点に立つ者としての姿にそぐわない。

 あれではまるで、魔王のコスプレをする大道芸人のようだ。

 しかし、奴はその軽そうなイメージとは裏腹に、人質にとったアムールを、盾のように私達へ向けて誇示しているという、陰湿きわまりない真似をしてくれている。


 おのれ……私のアムールに、なんという屈辱を!


 今すぐにでも斬りかかりたい衝動を堪え、私はわずかな隙も見逃さぬように、機をうかがっていた。

 そんな時、奴の手の中のアムールが、何やらモゴモゴと口の中で唱え始めた!

 あれは……まさか、魔法の詠唱!?


 無茶をしてはいけない!と、止めるよりも先に、邪悪な笑みを浮かべた大魔王は、さらなる麻痺毒をアムールに追加した!

 いままで以上に、ダラリと弛緩するアムール!

 だけど、彼の不幸はそれに止まらなかった!


「!?」

 スン……。

 アムールの方から、わずかに香ったアンモニア臭を感じ、私は密かに鼻を鳴らす。

 それと同時に、彼の足を伝って流れ落ちる液体が視界に入った!

 あ、あれはまさか……漏らしてしまったの!?


 漏らしてしまうほど麻痺毒を盛られたアムールは、絶望と羞恥にこれ以上ないほどに顔を真っ赤に染め、ポロポロと涙を流す。

 彼の深い深い悲しみと悔しさは、どうしようもないくらいに感じられるのに……私はお漏らしをするアムールの姿に、胸が高鳴るのを自覚していた!


 ……勘違いしないでもらいたいが、私にそういう(へき)はない!

 あくまでも、アムールだから……そして、太古の獣人族の本能が刺激されているから、このような感覚を覚えているのである!


 かつて、定住する地を持っていなかった頃の獣人族は、別れた者達への情報伝達手段として、マーキングという方法を取っていた。

 現在ではさすがにそんな方法も廃れ、獣人族同士でも情報を読み取るような事はできなくなったが、それでもごく親しい家族や(つがい)の排泄物から、心理状況や身体情報が読み取れる事もあるのだ。


 そして今、私達の目の前でお漏らしをしてしまったアムールの心の中は……私に対する申し訳なさと、嫌われるんじゃないかという不安で一杯だった!

 こんな、自身の命が危ない局面にあっても、一番に想う事が私の事だなんて……君って子は!

 私の胸の奥から、庇護欲やら愛しさやらが、ごちゃ混ぜになった感情が溢れだしそうになってくる!


 今すぐにでも、アムールを抱き締めたい!キスしたい!ペロペロしたいぃっ!


 だっ……だけど、落ち着きなさいディセル!

 強すぎる感情は、精密な技工を旨とする『抜刀術』の剣先を鈍らせる!

 アムールを無事に私の手に取り戻すためにも……今は煮えたぎるマグマのような激情に、そっと蓋をしよう。

 植物のように、そして嵐の前の凪のように……。

 私は、いずれ訪れるであろう反撃の瞬間を待つために、荒ぶる心と気配を深く沈めていった……。


           ◆◆◆


 あ、あう……あうう……。

 あまりの情けなさに、涙が止まらない……。

 皆が見てる前で漏らしてしまった僕は、どうしようもない絶望感に囚われていた。

 何よりも辛いのが、こんな僕を見て、ディセルさんが顔を伏せてしまった事だ……。

 もしかしたら、彼女に見限られてしまったのかもしれない。

  うう……お別れとか告げられたら、僕はもう立ち直れないと思う。

 いや、ディセルさんに限って……とは思いたいけれど、どうしてもそんなネガティブな想いが、頭を離れなかった。


「……貴様ぁ!それ以上、彼女を辱しめるような真似はやめろぉ!」

 ダンッ!と地面を踏みつけながら、エルビオさんが聖剣の切っ先をギストルナーダに向けて吼えた!

「大魔王ともあろう者が、いたいけな少女を人質にして優位に立とうなど、恥を知れ!」

 正面から挑む勇者の姿に、回りのA級ハンター達からも「そうだ、そうだ!」という声が上がる!


「ふむ……随分と勇者殿は、この子にご執心のようだ。ひょっとして、好きなの?」

 まるで、友達と恋ばなでもするみたいな気安い口調で、大魔王は勇者に語りかける。

 それを受けて、エルビオさんは真っ直ぐに僕を見据えながら頷いた。


「ああ。僕はアムールを愛している!」

 そのストレートな告白に、周囲からも感嘆の声が上がる。

 中には、羨ましいなんて声も混ざっていたけれど……そ、そんなに本気で告白されても……困ってしまう。


「んんっ!素晴らしい!さすがは勇者殿!」

 大袈裟な、芝居がかった物言いでギストルナーダは賞賛の言葉を投げ掛けた。

「いやはや、なんとも真っ直ぐで気持ちのいい告白だった!こっちが照れてしまうくらいにねっ!」

 そんなギストルナーダに合わせるように、ウェルティムやラグロンドも気のない拍手をエルビオさんに送る。


「くっ、馬鹿にしているのかっ!」

 その、小芝居みたいな態度にエルビオさんが激昂しかけたが、大魔王は「とんでもない!」と肩をすくめた。

「私は、君の想いの深さを、本気で素晴らしいと思っているのさ。それだけに、騙されている(・・・・・・)勇者殿が、不憫でならない」

 え?

 唐突なギストルナーダの言葉に、僕達はおろか、エルビオさん達も眉をひそめる。


「どういう事だ?僕が、誰に騙されているというんだ」

「それはもちろん、このアムールという(・・・・・・・・・)子にだよ(・・・・)

 え、ええっ!?

 いったい、何を言い出すんだ、この大魔王は!?

 だけど、激しく動揺する僕とは裏腹に、エルビオさんは少し物憂げに小さく笑った。


「……アムールに、すでに好きな人がいるのは知っているさ。だけど、愛は戦いだ!必ず、彼女を百合々々した関係から、僕の方へと振り向かせてみせる!」

 ガッ!と拳を握って、宣言するエルビオさん!

 そうして、僕へ向かって慈愛のこもった笑みを浮かべた。


「ああ、いや……そういうことじゃないんだ」

「え?」

 あっさりと、エルビオさんの告白を横に置いて、ギストルナーダはわずかにため息を吐く。

 大魔王が何を言いたいのかわからず、エルビオさん達もなんだか困惑したような表情だ。


「……今回の一件、なぜ私がアムルズなんて名前を持ち出し、ラグロンドに偽装させて騒動を起こしたと思う?」

「それは、僕達を誘き寄せるために……」

 唐突に変わった話題に、エルビオさんもわずかに戸惑いながら答える。

「そう!それもある!だが、もうひとつの理由は、私が本物のアムルズ(・・・・・・・・・)の居場所を知ってい(・・・・・・・・・)るからだ(・・・・)!」

 なっ!


「なんだってえぇ!?」


 ザワリとエルビオさん中心に、どよめきが起こった!

 そして、当の本人である僕も、すさまじく動悸が激しくなる!

 う、う、う、嘘でしょ!?

 もしかして、本当に僕の正体を……!?


「それが本当なら……本物のアムルズは、どこにいるんだ!」

 当然の疑問を、エルビオさんは投げ掛ける!

 それを受けて、僕の背後でギストルナーダがニヤリと笑った気配がした!


「ここにいるさ」

「……は?」

「だから、私の手の内にある少女。君が愛の告白をした、アムールという少女の正体こそが、君達が追放したアムルズ少年の、なれの果てだと言っている!」

 ああっ!

 こ、こいつ本当に僕の正体を……!


 しかし……そんな大魔王の言葉に、エルビオさんをはじめとする皆は、キョトンとした顔で首を傾げた。

 その表情からは、ありありと「何言ってんだ、こいつ?」という感情が見てとれる。

 も、もしかして、誰も大魔王の言葉を真に受けなかったのかな?


「言うに事欠いて……どこをどう見たら、アムールがの正体が男だなんて思えるんだ?」

 呆れたようにエルビオさんが言うと、同調するようにお姉ちゃん達も声をあげる!

「そ、そ、そうよ!うちのあーちゃんは、それはもうどっからどう見ても立派な女の子よ!」

「そ、そ、そ、そうッス!アムール氏は、ウチよりも美少女してて、たまに羨ましくなるくらいの美少女ッス!」

 フォローしてくれるのはありがたいけど、なんか逆に怪しまれそう!

 もうちょっと、落ち着いてよ、お姉ちゃんにロロッサさん!


 だけど……そんな二人の言動よりも気になったのは、沈黙を守るディセルさん……。

 いつもだったら、真っ先に僕を擁護してくれるのに……どうして……いまは何も言ってくれないんだろう……。

 一瞬、ごちゃついた展開に忘れかけた暗い気持ちがよみがえってきて、また涙がにじんできそうになった。

 ああ……彼女の声が聞きたい……。


「……そうだな。私の目から見ても、完全にただの美少女だ」

 急に前言をひっくり返すような、ギストルナーダの言葉に僕の意識も現実に引き戻された。

「だろう?だったら、そんな世迷い言は……」

「だから、君達も騙されていたのだと言っているのだよ、私は」

 引いた風に見せて、やっぱり引かないギストルナーダに、一部のハンター達からも「まさか……」といった疑惑の目が僕に向けられる。


「僕達を動揺させようとしているなら、無駄だ!」

「私達は、邪神の僕たる貴方の言葉に惑わされたりしません!」

「そうだぜ!それとも、アムールが男の子だって、証拠でもあるのかよ!」

 エルビオさんを始め、勇者一行の仲間達からも大魔王の言を撥ね付ける声が投げつけられ、ギストルナーダは「くくっ」と小さく笑った。


「いいだろう!見せてあげようではないか、その証拠を!」

 そういうが早いか、ギストルナーダは僕の襟元に手をかける!

 それと同時にバリバリと音を立てて、胸元からスカートまで、装備していた防具ごと僕の服を切り裂いていった!


 麻痺して抵抗できない僕は、顕になった下着姿を隠すこともできない!

 そして……失禁したために濡れた下着が張り付いた股間には、女の子にあってはならない器官が、はっきりと形作っていた!


 一瞬の沈黙。

 そして、怒濤のように広がっていくどよめき!


「お、おちん〇んやんけぇぇぇ!」


 折り重なった周囲のその声は、天を突く怒号となって響き渡っていった!

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