06 勇者一行とはどういう関係なんだ?
今度はいったい、どのA級チームが到着したんだろう……。
一応、迎える側である僕達は、そちらの方へ向かおうとする。
だけど、不意にディセルさんが嫌そうな顔をしながら、僕の肩を掴んで歩を止めさせた!
「どうしたんですか、ディセルさ……」
「おおっ!『聖剣の勇者』一行の、お出ましだぁ!」
止められた方向から聞こえてきた歓声に、彼女の真意を察した。
ああ……エルビオさん達が、到着したんだ……。
「すげぇや!また勇者様が僕らの街にやってきたんだ!」
「知ってるか、勇者様はドワーフの国の近くに住んでた、『邪悪暗黒竜』を倒したんだぜ!」
「そんなの知ってらぁ!他にも、エルフの国を襲おうとしてた、『外道暗黒竜』も討伐したんだぞ!」
「ふふん!俺の情報だと、太古の眠りから甦った、『不倶戴天暗黒竜』を倒したのが最新なんだぜ!」
暗黒竜ばっかりだな!
……それにしても、そんな勇者一行の話に夢中になって、荒くれな者なハンター達が、夢を語る少年の瞳になってしまっている。
さすが、勇者のカリスマ性はすごいなぁ。
さらに、憧れが止められないこの街のハンター達は別にして、猛者揃いのA級ハンター達でさえも勇者一行の存在感を前に、ちょっと気後れしているみたいだ。
さっき絡まれかけた事もあってか、ほんのちょっぴり勇者一行と顔見知りなのが、誇らしく感じる。
……とはいえ、彼等に見つかったら面倒な事になりそうだし、ディセルさんも心配するから、ちょっと裏の方へ行っていよう。
そうして、皆から囲まれてサイン攻めになっているエルビオさん達に背を向けて、そーっと隠れようとしたんだけど……。
「アムール!アムールじゃないか!」
ああ……見つかった……。
僕の事は姿を発見したエルビオさんは、するりと人混みを抜け出すと、僕のそばまでやって来る。
「ど、どうも……お久しぶりです、エルビオさん……」
「ああ、本当に久しぶりに感じるよ。君と離れていると、こんなにも時間の流れが遅く感じるだなんて、思ってもいなかった」
僕の手を取り、そっと片ひざをついて、手の甲にキスをするエルビオさん。
な、なにを!?
って、ほら!なんか怖い顔をしてる人が、いっぱいいますよ!?
だけど、エルビオさんは外野の方に気にも止めず、僕の顔をまっすぐ見つめてきた。
「今日は、随分とおめかしをしているんだね。いつものハンター姿も素敵だけど、今の君もすごく魅力的だよ……」
ふ、ふぇっ!?
面と向かってそんなことを言われると、さすがにちょっと照れちゃう……。
「もしも、君が着飾ったのが、僕を迎えてくれるためだったなら、とても嬉しいんだけどね……」
「あっ、それは……」
そんなつもりは無かったために、一瞬だけ言葉に詰まってしまう。
だけどそんな僕を、「図星を突かれて戸惑った」と解釈したらしいエルビオさんは、柔らかな微笑みを浮かべながら、僕の腰に腕を回して体ごと抱き寄せようとする!
しかし、わずかな間隙をぬって腕を伸ばしてきたディセルさんが、流れるような華麗な動きで僕の体をエルビオさんから奪い取り、そのまま間に入ると手をエルビオさんを牽制しながら対峙した!
「再開して早々に、私のアムールに手を出すのは、節操が無さすぎるんじゃないんですか、勇者殿?」
「そうだね、僕の愛しいアムールに会えた事で、少し浮かれてしまったみたいだよ」
バチバチと火花を散らす、ディセルさんとエルビオさん。
「あ、あの……他の人達も見てますし、ここは穏便に……」
僕がそう提案すると、険悪な雰囲気を醸していた二人は、いきなり満面の笑みを浮かべた!
「そうだね!アムールの言うとおり、少し大人げ無かったよ」
「僕も、久しぶりに会えて浮かれてたみたいだ。すまないね、ディセルさん」
「こちらこそ、エルビオ殿」
ディセルさんとエルビオさんは、笑顔のままで握手を交わす。
そして、それを見ていたA級チームの面々からは、色々と戸惑うような囁き声が上がっていた。
「『レギーナ・レグルス』、勇者一行とはどういう関係なんだ?」
「それに、あっさりと二人を止めた、あの娘もなんなんだ……」
「なんにしろ、大事な作戦前に面倒な事態ほ避けられたようで、なによりだが……」
そんな感じで、ヒソヒソと囁き合う声が、僕の耳にも届く。
しかし、一見すればにこやかに握手するディセルさんとエルビオさんの手に、万力のごどき力が込められている事は、間近で見ていた僕しか気づけなかっただろう。
ミシミシと、骨と筋肉が悲鳴を上げて潰し合いをする音がわずかに響く中、せめて仲良くしてほしい……と、僕は心から二人にお願いしたい気持ちでいっぱいだった。
◆
「ようこそ、お集まりくださいました、各ギルドが誇るA級チームの皆さま方」
集結した、僕達を含む総勢十五のA級チームを前に、この支部のギルド長が一礼をした。
なお、一応は最上級チーム達だけの作戦会議的な事が行われるので、野次馬に集まっていたこの街のハンター達は、帰されている。
「皆さんも、すでに聞いているとは思いますが、今回の招集は巷を騒がすA級ハンター狩り……すなわち、『魔人アムルズ』を名乗る者を討伐する事が目的です」
うう……『魔人アムルズ』が偽者だというのは、当たり前だけど僕が一番よくわかってる。
それでも、こんな風に僕の名前でヘイトが集まっている状況には、ちょっと心が弱ってしまう……。
だけど、そんな僕の心情を察して、隣に立っていたディセルさんが、ギルド長の話を聞きながらも僕の手を握ってくれた。
その手から伝わる、暖かいぬくもりと心遣いに、なんだか涙が出そうになってしまう。
だから僕は、精一杯「好き」の気持ちを込めて、彼女の手を握り返す。
そんな、さっきのエルビオさんの時とは違う、優しいくて強い握手を僕と交わすディセルさんの表情は、心なしか穏やかな感じがしていた。
そうしている内に、ギルド長の話は終わり、代わってエルビオさん達がA級チーム達の前に立って口を開いた。
「まずは、今回の一件で集まってくれたA級チームの皆さんに、アムルズについて話をさせてもらう」
そういうと、エルビオさんは僕が追放されるに至った経緯を語りだす。
はじめは、興味本意で彼の話を聞いていたA級チーム達だったけれど、いつしか「そりゃ、追放されてもしょーがない」といった空気になっていた。
うん、当の本人である僕が聞いても、それは追放されても仕方ないと思えるもんね……。
「当時の彼の精神状態を憂慮しての追放だったが、それが今回の事態を招いたのだとしたら、原因の一端は僕達にもある」
そこで、エルビオさんはA級チームの面々に向かって、頭を下げた。
「ですが、今回のアムルズさんを名乗る者が、本物かどうかはまだハッキリとしていません。なので、いま聞いた顛末は、どうか他言無用でお願いいたします」
さらに、エルビオさんの話を補足するように、ヴァイエルさんも頭を下げる。
すでに勇者一行から抜けた僕のために、そこまで配慮してくれるエルビオさん達には、感謝するしかない。
そうして、一通りの前振りを終えたエルビオさん達の話は、いよいよこれからの行動についての話になっていく。
「知っての通り、『魔人アムルズ』を名乗る者の目的は、A級チーム……延いては、僕達を潰す事なんだろう。そのため、この街にA級チームの皆と、僕達が集まっている事は大きく報じられているはずだ」
そう、偽アムルズの目的は全てここに集まっている。
だから、奴は必ず姿を現すはずだ。
ただ……。
「単独でA級チームを倒す『魔人アムルズ』とはいえ、この人数を相手に真正面から来るとは思えない。さらに、そいつが魔族との繋がりを持っているのなら、本命である僕達を前に、大規模な兵力で襲ってくる危険性もあるわけだ」
エルビオさんの言うことに、A級ハンターの面々も頷いている。
確かに、ひとつのA級チームを倒せても、これだけの人数が集まれば多勢に無勢だもんね。
「だから僕達は、その戦いに一般市民を巻き込まないよう、この街から離れてキャンプをすることにしようと思う」
なるほど、それは合理的だ。
街の防衛には国軍が協力してくれる手筈だし、しっかりとした防衛陣のある街に籠っているいるよりも、『魔人アムルズ』だって僕達を襲いやすくなるだろう。
「キャンプ候補地への移動は、明日からになる。なので、今日はゆっくりと鋭気を養ってほしい!」
そう締めくくったエルビオさんの対して、A級チームの皆さんは「おおっ!」と気合いのこもった返事で返した!
いよいよ、僕の名を騙る『魔人アムルズ』との対決か……。
ガマスターさんの話では、その裏に大魔王と呼ばれる存在が暗躍している可能性があるとの事だったし、一度エルビオさん達にはその話をしておいた方がいいかな。
とはいえ、エルビオさん達は現在、A級チームの人達に囲まれている。
さすがに、いまは無理だな……そう判断した僕達は、遠巻きにエルビオさん達へ向かって手を振り、ひとまず明日からの準備を行うために、ギルド支部の建物を後にした。




