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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第六章 大魔王の策略
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05 ただの噂って訳でも無さそうだな

「まぁ、不安になるのはしょうがないけど、私達はどんな時でも臨機応変に対応できるように準備しましょう」

 パンパンと手を叩いて、お姉ちゃんが話をまとめ、気を引き締めてくれる。

 さすが、年の功だなぁ。

「……あーちゃん、いま何か失礼な事を考えたかしらぁ?」

「い、いえ!なにも……」

 こ、怖ぁ……時々、お姉ちゃんが僕の考えを読むような鋭さを見せるのは、なんなんだろう……。


「でもまぁ、あーちゃんにはしっかりしてもらわないと。これからが大変なんだからねぇ!」

「……うん、そうだね。大魔王の動向や……」

「違う、違う。そんな先の話じゃなくてぇ、割りとすぐの話よぉ」

「え?」

 そ、そんなに身近に迫った問題なんて、あったっけ?


「もぅ……これから集まってくる、各地方のA級ハンター達に、地元のA級のリーダーとして、ちゃんと対応してもらわなきゃいけないでしょう!」

 あ、そうか……でも、僕なんてリーダーといっても、別にたいした実権を握ってる訳じゃないし、こういう事に馴れてそうなお姉ちゃんに仕切ってもらった方がいいんじゃ……。


「それはダメよ!『レギーナ・レグルス』を立ち上げたのはあーちゃんなんだから、ちゃんと責任は果たさないと!」

 「お前が始めた物語だろう?」と、厳しく突き放すようにお姉ちゃんは言う。

 ……確かに、そうかもしれない。

 運命共同体のディセルさんはともかく、ロロッサさんやお姉ちゃん、シェロンちゃんの命運を預かる以上、僕がもっとしっかりしないといけないよね!

 まぁ、お姉ちゃんは勝手に加入してたし、シェロンちゃんはチームに入ってはいないんだけど。


「でも、大丈夫かなぁ……ボクなんかじゃ、百戦錬磨なA級の人達に、舐められちゃうんじゃ……」

「それは問題ないよ!だって、アムールは可愛いからね!」

 可愛いは正義!を背後に背負い、ディセルさんは絶対の自信を持って保証してくれる!

 その気持ちは嬉しいし、自信も沸いてくるけど、荒くれ者なハンター達に、その理論は通じるだろうか。

「まぁ、この街のハンター達には、十分すぎるほど通じているけどね」

 た、確かに……。


「でも、そうよね!他所から来るハンター達に、あーちゃんの可愛さが通じるかは、わからないわね!」

「なら、今以上にアムールを可愛いらしく仕上げるしかないな……」

 ディセルさんとお姉ちゃんの目に、怪しい光が宿り始める!

 なにか、身の危険……というか、性別の境界を犯される危険を感じた僕は、思わずロロッサさんとシェロンちゃんに、助けを求めるかのように視線を送った!

 が……。


(すんません、無理ッス!)

(そのお二人を、止める手段なんてありませんの……)

 と、言わんばかりに、僕へ向けて合掌している!

 あ、諦めるのが、早すぎでじゃないですか!?


「ふふふふ、さぁアムール……もっと綺麗になろう……」

「あーちゃんの新しい魅力を、引き出してあげるわぁ……」

「は、はわわわ……」

 ギラギラした瞳に怯える僕を写しながら、ディセルさんとお姉ちゃんはジリジリと迫ってきた……。


            ◆


 ──収集がかけられてから数日の間に、バートの街には各地から続々とA級ハンターのチームが集まって来ていた。

 彼等はいったん、ギルドが用意した宿へと入り英気を養ってもらっていた。

 これは、血気盛んな者達が不要なトラブルを起こすのを防ぐ意味もある。

 そして、いよいよバートの街のギルド支部において、各地のA級ハンター達が初の顔合わせをする事になったのだが……。


            ◆


 ……いつものようにざわつくギルド支部ではあったけど、さすがに今日はその内容が違った。

 普段なら、依頼の件や仲間同士の情報交換、そして冒険の後の一杯をどこでやるかなどの、地元ハンター達の喧騒がメインだ。

 しかし、現在その騒がしさの中心は、集まってきた名だたるA級ハンター達のであり、地元のそれ未満のハンター達が、あこがれの存在を一目見ようと集まって遠巻きにしているといった感じである。


 そんな中、一際目を引くパーティがあった。

 言わずと知れた、地元のA級ハンターチーム、僕達『レギーナ・レグルス』だ。

 ……ただ、そんな僕達を見る他地方のA級ハンター達の目は、色々と複雑そうな色を帯びている。

 それは、僕達がパッと見で妙齢な女性だけのチームだという事や、A級に上がるまでの経緯を聞いていたから……という事もあるんだろう。

 だけど、その一番の理由は……。


「……おい、あんたら。確か、『レギーナ・レグルス』とか言ったな」

「おや、初めまして。そちらは、『クリムゾン・エース』の方々とお見受けしするが?」

 僕達に話しかけてきた、赤を基調とした装備に身を包んだ一行に、ディセルさんがにこやかに対応する。

 南方で活動する彼等、『クリムゾン・エース』の面々は、熱と炎に対して高い耐性を持つチームして有名だ。

 そんな彼等が、少し困惑したような様子で、言葉を続ける。


「A級に上がったばかりとはいえ、あんたらの活躍は、俺達の耳にも届いている」

「それは光栄だね」

「で、それを踏まえた上で聞くんだが……そっちのお嬢さんは、いったい何のつもりだ?」

 常識を疑うような顔つきの彼等から、指差されたのは……僕!

 ……そんな意見が出て来るのも、当然だろうな。

 なぜなら僕はいつもの装備を身に付けておらず、ディセルさんとお姉ちゃんの手によって、場違い感も甚だしい、まるでお姫様のような豪奢な格好に着飾られていたんだから。


「どっかの舞踏会にでも、出るつもりかよ……A級の集まりにめかし込んできたにしても、ちょっと感違いが過ぎねぇか?」

 『クリムゾン・エース』の面々に、そう思われても無理はない。

 確かに今の僕は、彼等が言う通り、どこかの城の舞踏会にでも行くのかってほどに、きらびやかなドレスに身を包んでいて、この場の空気にまったく合っていないんだもん。

 もちろん、ディセルさん達の熱が入りすぎた事もあるけれど、ギルドの方からも「うちのA級ハンターが、他の地方のA級とは一味違うと言う所を、見せつけてやってください!」なんて言われたものだから、僕がこの格好で集まりに来ることを止める物がいなかった故の結果である。


「どうだい、うちのリーダーは可愛いだろう!」

「っ!?」

 得意満面といったディセルさんの言動や、僕がリーダーだと知った『クリムゾン・エース』の人達は、少々面食らったようだ。

「……まぁ、多少の華やかさは必要だとは思うぜ。だが、俺達はこれからA級狩りを繰り返す、滅茶苦茶な敵を相手にしなきゃならないのに、その格好は少しはしゃぎ過ぎだろが」

 う、ううん……まぁ、はしゃいでる訳じゃないんだけど、その指摘に対しては、ごもっとも過ぎて一切の反論ができない。


「緊張感の欠片も無く、遊び気分でいられると他の奴等の迷惑だ。おふざけなら、どっか他所でやってくれ」

 いくつかのチームが、『クリムゾン・エース』達の言動に賛同するように頷いている。

 しかし、ディセルさんはそんな彼等の主張に対して、小さな笑みを浮かべた。


「これは、油断やおふざけとは違う、余裕というものですよ」

「そうよぉ。それに、可愛い可愛い、うちのあーちゃんの姿はリラックス効果も抜群でしょう?」

 若干、剣呑な雰囲気を含ませつつ、ディセルさんとお姉ちゃんが『クリムゾン・エース』の面々と対峙する!

 それを皮切りに、彼等に賛同する一部のA級チームと、僕達を推す地元のハンター達までも、ただならぬ雰囲気を醸し出してきた。

 ちょ、ちょっと皆さん!落ち着いてくださいよぉ!


「ふん……なにやら、勇者のおこぼれでスピード昇格したなんて話もあるが、その媚びた格好を見るに、どうやらただの噂って訳でも無さそうだな」

「ほう……なら、自身の体で試してみるかい?」

 ディセルさんと『クリムゾン・エース』の人達の間で、闘気のぶつかり合いによって、空気が蜃気楼のように歪む!

 まさに、一触即発!

 ……って、いやいやいや!ガチな決闘は、ダメですよ!

 慌てて止めるべく、僕は簡単な魔法を発動させた!

 それと同時に、睨み合う両者の間に光の障壁が出現する!


「むっ」

「なっ!」

 僕の意を察して、動きを止めるディセルさんと、急に現れた魔法の障壁に、戸惑う『クリムゾン・エース』の面々!

「落ち着いてくださいよ、皆さん!こんな所で怪我なんかしたら、バカみたいじゃないですかっ!」

 プンスコしながらそう告げると、ディセルさん達もちょっとは冷静になってくれたみたいだ。

 殺気だった気配も収まり、各々の武器からも手を離す。


「……なるほどな。このレベルの障壁を、瞬時に生み出せる魔法使いか」

「詠唱のスピード、込められた魔力……共に申し分ない」

「A級に相応しいだけの実力は、なんとかありそうだ」

 僕の出現させた、魔法の障壁を見ながら、『クリムゾン・エース』の人達が様々な分析を口にしていく。

 なんだか、まるで試されてたみたいだな……。

 多分、さっき言われていた『勇者達のおこぼれで出世した』なんて、噂の事もあるんだろうけど。


「……リーダーのお嬢さんに免じて、今回は引こう。だが、いずれちゃんとした実力を見せてもらいたいものだな」

「ああ、戦場でたっぷりと見せてあげよう。見とれて不覚を取らないよう、気を付けるといい」

 ディセルさんの言葉を受けて、『クリムゾン・エース』のリーダーは小さく笑うと、クルリと振り向いて雑踏の中に戻っていった。

 はぁ……大事にならなくて、よかった。


「ディセルさん!いったい、どうしたんですか、あんな喧嘩腰になるなんて!」

 いつもより、どこか好戦的だった彼女に、僕は注意するように問いかける。

「ああ、すまないね。まぁ……君が侮られた事と、彼等の強さに当てられた事で、少しばかり興奮していたみたいだ」

 へぇ……僕の事はともかく、ディセルさんがそんな粉とを言うなんて……。

 さすが、A級の人達は一味違うんだなぁと、改めてハンターの最高峰達への尊敬の念が湧いてくる。

 僕達も、彼等から認められるように、気を引き締めなくちゃ!

 ……まぁ、そのためには、今の格好をなんとかしないとね。

 ディセルさんやお姉ちゃんには悪いけど、いつもの格好に着替えてこよう。

 そう思い、ギルドの一室を借りようとした時。

 一際高い歓声が、入り口の方から聞こえてきた。

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