02 ステイですの!
ぼ、僕の討伐依頼!?
なんで、ハンターギルドがそんな物を……。
「ど、どういう事なんですかっ!? 詳しく教えてください!」
「いやぁ、そんな事より、アムール氏とディセル氏の初夜の方が大事ッスよ!」
「そうですの!是非とも、ガッチリ既成事実をお作りになって、勇者さまに引導を渡していただきたいですの!」
な、何を言ってるの、二人とも!?
どうやら、変なスイッチが入ってしまったみたいで、ロロッサさんとシェロンちゃんは、すっかり色事第一主義になっている。
僕が本気で討伐対象になっているなら、それどころじゃないでしょう!?
「わ、私のアムールを討伐だって……」
その時、真剣そのものといった顔つきで、ディセルさんが呟く。
さすが、彼女は事の重大性を悟ってくれたみたいだ。
そうそう、こんな風に、本気で取り組んでもらわないと!
「フフフ、そうか……ギルドは、私を敵に回すつもりなんだね……なら、殺られる前に殺らなくちゃ……」
本気過ぎです、ディセルさん!
ターミヤさんから譲り受けた、『真刀・国士無双』を握りしめ、ゆらりと立ち上がったディセルさんにしがみついて、僕は「落ち着いてください!」と説得する!
「と、とにかく!状況がわからないと、動きようがないです!ロロッサさん達は、僕の討伐理由とか、その辺の事を聞いてないですか?」
「そ、そうッスね!お二人のイチャラブ報告は、後回しッスよね!」
「少しばかり、色恋話に引っ張られ過ぎましたの……」
ようやく冷静になってくれた、ロロッサさんとシェロンちゃんの口から、『アムルズ討伐依頼』に至る、その概要が語られはじめた……。
「そもそも、今日ウチらが街に出掛けたのは、買い物が目的だったんス。それというのも、シェロン氏が勇者氏を落とすために、セクシーかつキュートな服や下着を買いに行くというのを聞いて、ウチも後学のためについて行ったんスよね。いや、今のウチにそういう想いを向ける相手がいるわけじゃないんスけど、アムール氏やディセル氏のイチャイチャっぷりを見てると、やっぱり羨ましいとか、憧れみたいな気持ちが湧いてきてたんスよ。思ったより、ウチも乙女の端くれだったんだなぁ……って、ちょっと意外に思いながらも、ビビってばかりじゃ駄目って結論に至ったんス。だから、いつか素敵な人ができた時のために……」
長っ!
しかも、いつもとは裏腹に、饒舌かつ流暢に早口で語るロロッサさんの話は、肝心の所まで到達していないし、別の方向に向かおうとしているっ!
「ロロッサさま、ステイですの!」
思わず止めに入ったシェロンちゃんに肩を掴まれ、ロロッサさんはハッ!としたように動きを止めた!
ふぅ……普段は引きこもりを自称してる彼女だけど、今回のシェロンちゃんとの買い物がよほど楽しかったのか、恋愛への憧れがだいぶ内で高まっていたみたいだ。
良い人が見つかるように、いずれ協力したいとは思うけど、今はギルドの件に集中してもらいたい……本当にお願いします。
「す、すんませんッス……ウチとしたことが、取り乱しましたッス……」
正気を取り戻したロロッサさんと、それを制御して輔佐するシェロンちゃんが語った、事の内容はこうだ……。
◆
それが起こったのは、二日ほど前。
ここより西方にある、とある王国のギルドに属するA級ハンターチームが、突然の襲撃を受けて敗北したのだ!
襲われたチームは『ブラック&ブラック』。
実力もさることながら、メンバー全員が黒で統一された装備をしている事でも有名なチームである。
『ブラック&ブラック』の面々は、辛うじて死者を出すことはなかったものの、かなりの痛手を負ったらしい。
そして、その襲撃者は立ち去る前に名乗ったのだ。
「我が名はアムルズ。勇者に追放された恨みを晴らすため、魔人として生まれ変わった者である!」と。
◆
勇者に追放された恨みを晴らす……ああ、なんだかそれっぽい動機だ!
「だが、待ってくれ。アムールが追放されたのは、有名な話だし、その襲撃者が勝手に名乗ってるだけなんじゃないのかい?」
「ええ。だからウチらも、ギルドでネッサ氏から話を聞いた時に、同じ質問をしたんス」
「ですが、ギルドの方でも即座に勇者さまに確認をとった所、襲撃者が行ったある行動を聞いて、『おそらく襲撃者はアムルズ』だと確信したそうなんですの!」
ある行動……?
「それって、なんなんですか?」
思わず口をついた僕の問い掛けに、ロロッサさんとシェロンちゃんは顔を見合わせて頷く。
「その、アムルズ氏を名乗る襲撃者は、倒した『ブラック&ブラック』の面々から装備を剥ぎ取り、男のメンバーに、女のメンバーの装備をむりやり着せて、『お似合いだぜー!』と嘲笑っていたそうッス……」
なっ!?
そ、その行動って……。
「……アムールが勇者パーティから追放される原因になった、ヴァイエル達の服を着ようとしていた事案になぞらえているようだね」
神妙な顔つきで、ディセルさんが呟く。
や、やっぱりそうですよね……。
でも……。
「エルビオさん達は、その行動を公言してはいないはずです」
当時、女装をしていなかったために魔法が使えなかった僕は、強敵に襲われていたエルビオさん達を救うため、ヴァイエルさん達の服を借りて魔法を使おうとした。
しかし、それは精神的に病んでいたための行動とみなされ、僕の名誉のためにも、彼等は追放理由として挙げていなかったハズである。
それだけに、今回の襲撃者の話を聞いて、そいつが名乗ったとおりアムルズだと確信したのだろう。
誤解ではあるけど、無理もない。
「勇者一行に恨みを持ち、手練れのA級チームを単独で倒すほどの魔人……それらの事実から、ギルドは『アムルズ討伐』の緊急依頼を出したそうなんですの!」
なるほど……状況を聞けば、その処置も納得だ。
「おそらく、ウチらも参加の要請が来るッス」
「私達にも?」
「はいッス。その討伐依頼、参加条件がA級チームのみとされてるからッス」
ふむう……確かにそういう条件なら、僕達にも要請が来そうだ。
元々、A級まで昇るチームは多くないし、そんなA級チームを倒すほどの相手に実力不足の面子を参加させれば、被害は拡大してしまうだろうから、ギルドの判断は正しいと思う。
「……とにかく、敵の目的がなんなのかはわかりませんけど、僕達も一度ギルドに行って、詳しく話を聞いてみる必要がありますね!」
「そう……だね……」
謎の敵に備えようと提案した僕に、ディセルさんはとても辛そうに答える。
ギリギリと歯をくいしばり、必死で何かに耐えているような様子だ。
い、いったいどうしたっていうんだろう!?
「かわいそうなディセルちゃん……」
そんなディセルさんの様子に、お姉ちゃんがホロリと同情しながら、彼女の背中を撫でる。
「お、お姉ちゃん、どういう事なのっ!?」
「んもう!鈍いわねぇ、あーちゃんは!」
そんなんじゃだめよぉ!と、やんわり僕を叱りつけながら、お姉ちゃんはディセルさんの様子がおかしい理由を教えてくれた。
「ディセルちゃんはね、今夜あーちゃんと初夜を迎えるのをすごく楽しみにしていたのに、こんな緊急事態に巻き込まれてお預けを食らうのが、とっても悔しいのよぉ!」
あ……。
ええっと、その……そうなんですか?
ヒソヒソとディセルさんに問いかけると、彼女は小さく首を縦に振った。
はうっ♥
そんなディセルさんの、期待と恥じらいが混じりながらも悔しそうな表情に、僕の胸は高鳴る!
そ、そりゃ、できることなら、僕だって彼女と素敵な夜を迎えたい!
だけど、今回の事は話が話だけに、早急に対処しなくちゃいけないのだ。
だから、今の僕達にできる事は、ただひとつ……。
「あの……事がすんだら……必ず一緒に!」
「……うん♥」
はっきりとは言わずとも、僕の意図を察してくれたディセルさんが、頬を染めて頷く。
悲しいけど、今の僕達にはこうして約束を交わしておくくらいしかできない。
たから僕達は、互いを慰めように抱き締め合い、頬を擦りあわせる。
そんな僕らの様子を、いつの間にやら集まってきていたリズさんやガマスターさんも交えた仲間達は、生暖かい目で見守りつつ、「やれやれだぜ……」といった感じで、肩をすくめていた。




