07 今後とも、よろしく……
まさかの急ぎで獣人王国に向かう事になった僕達だったけど、数日間の時間をかけて領内に入り、なんとか無事に目的の場所にたどり着いた。
この国は、正規の交易や交流のある大通り以外の道は、ほとんど舗装や整備されておらず、人目に着かないようにするには、山野を越えて進むしかなかった。
普通なら、そんな険しい山の中を大勢で移動するのは困難なんだけど、獣人族にとってはそんな過酷な道も苦にならないらしい。
なので、周囲の自然は天然の防壁代わりになっているのだと、ディセルさん達は教えてくれた。
そんな道無き道をすいすいと進むディセルさん達に、辛うじてではあるけど着いていけたのも、近接戦闘に対処するために身体強化魔法を常に発動できるよう、訓練していたおかげだろう。
「はぁ~、この強行軍は、ちょっと歳上な私にはキツかったわぁ……」
大きく伸びをしながら、マーシェリーがそんな言葉を漏らす。
うーん、キツかったなんて言ってるけど、僕よりもまだまだ余裕があるように見えるんだよね。
身体強化の仕方も、僕よりスムーズで効率が良さそうだったし、さすがは僕のお祖母ちゃん。
でも、軽く言ってるけど、本当にキツかったのかもしれないな。
なんせ実年齢は……。
「あーちゃん?いま、余計な事を考えなかったかなぁ?」
「ひぃっ!」
ギギギ……と軋んだ音でも聞こえそうな雰囲気で、お祖母ちゃんは張り付いたような笑顔を僕に向ける!
ま、まずい!
これは、修行中にもたまに見た、ヤバいタイプの威嚇だ!
慌てて僕は、なにも変なことは考えてなかったと、身振り手振りを交えてアピールすることで、なんとか事なきを得た。
「それにしても、こちらの方はヤワすぎですの!」
「も……もうしわけ無いッス……」
呆れたようなシェロンちゃんの指摘に、ディセルさんに背負われたロロッサさんが弱々しく答えた。
冥界神の加護のおかげで、多少の強化はあるものの、元々、ロロッサさんは体力的には一般人よりちょっと上くらいしかない。
そんな彼女が背負われていたとはいえ、なんとか脱落しなかっただけでも大したものだと思う。
「ですが、ここまで体力がないのですと、足手まといではありませんの?」
「シェロン、少し言い過ぎだ……」
「……シェロン氏の言い分、ごもっともッス」
歯に衣着せぬシェロンちゃんを嗜めようとした、ディセルさんの言葉を遮り、ロロッサさんは声を絞り出した。
そんな彼女が、ディセルさんの背から降りて大きく息を吐き出す。
「……ただ、ウチも足手まといになるつもりは無いッス。このパーティに貢献できるくらいの、能力はあるッスよ!」
むっ!
彼女がそんな事を言うということは、もしや……。
何かに気づいた様子の僕に、ロロッサさんは彼女なりに精一杯のぎこちない笑みを浮かべて頷いた。
「ターミヤ氏に代わって、新たな方と契約、召喚できるようになったッス!」
おお!
ついに、ドワーフの国で別れたターミヤさんとは別の護衛を見つけたんだ。
ロロッサさんが召喚するのは、冥界で未練を残す過去の偉人や達人。
もしかしたら、『剣聖』ターミヤさんに匹敵するような、すごい人が召喚されるかもしれない。
「だ、誰と契約したと言うんだい?」
僕と同じように、興味深々といった風なディセルさんが、ロロッサさんに尋ねる。
「ふへへへ……それじゃあ、お呼びするッスよ。ウチの新しい契約者を!」
そう言って、ロロッサさんは魔力を集中させ、召喚陣を形成すると召喚のための詠唱を始めた!
短いそれが唱え終わると同時に、怪しい光が召喚陣から溢れ、ゆっくりと人影が浮かび上がってくる。
うわぁ……これが、冥界からの召喚のシーンなのか……。
普通の召喚魔法で呼び出す時よりも、なんだか雰囲気があるなぁ。
珍しいシーンを見れて、魔法使いとしてちょっと嬉しい……とまぁ、そんな僕の感想は置いといて。
ロロッサさんが呼び出した影は、ようやくはっきりとした形を現した。
それは、ターミヤさんと同じような、スケルトンタイプで、豪奢な装飾のローブを纏い……って……あれ?
こ、この人、もしかして……。
「ご紹介するッス。こちらが、ウチの新しい護衛ッスよ!」
「死霊王ことガマスター・フハイン・マスターナだ。今後とも、よろしく……」
ロロッサさんに呼び出された死霊王を名乗るアンデッドは、恭しく頭を垂れて、僕達に挨拶をしてきた。
「……って、この人、魔王四天王の一人じゃないですかっ!」
思わず大声でつっこんだ僕に、ガマスターは「チチチ……」と舌を鳴らして指を振りながら、その言葉を否定する。
「お嬢さん、元魔王四天王、だ。今の我は、冥界神様の命令に従い、ロロッサ嬢を守るのが使命よ」
前に戦った時の傲慢さは鳴りを潜め、その言葉通りにロロッサさんへ頭を下げるガマスター。
ううん……前の戦いで、最後は冥界神の使いである『獄卒』のカマーさんに連行されていったけど、連れていかれた冥界で何があったんだろう?
「ガマスター氏は冥界で、カマー氏をはじめとする『獄卒』の皆さんや、冥界神様から直々に折檻されて、心を入れ換えたんスよ」
「左様。いままで死者の魂を使い、好き勝手に使役していた事がどれだけ罪深い事だったか、文字通り骨の髄までわからされたのだ……」
アンデッドの軍勢を率いて、僕達の街へ襲撃してきたガマスターが、なんだかしおらしい事を言ってる……いったい、冥界でどんな目に会ったんだろう。
「ま、魔王四天王……ほ、本物なんですの……?」
「ハハハ、元だがな。サインやろうか?」
驚愕するシェロンちゃんに、ガマスターは気さくに笑いかけながら対応している。
前に戦った時は、かなり傲慢で不遜だった気がしてたけど、こんなにも変わるものか……。
そう、思っていた時、突然、ガマスターの様子がおかしくなった!
「……あ……ダ、ダメっ!許してぇ!そんなおっきいの、入らないよぉ!」
急にガマスターがガクガクも震えながら踞る!
「なっ……」
「時々、こんな風に折檻の情景がフラッシュバックするらしいんスよ」
か、完全にトラウマになってるじゃないですか!
本当に、何をされたというんだろう……冥界神の恐ろしさの片鱗を見た気がして、僕もブルリと小さく震えた。
「……取り乱しました」
しばらくして、ようやく立ち直ったガマスターは、埃を払いながら立ち上がって皆に一礼する。
落ち着いたようにも見えるけど、情緒不安定っぽくてなんだか心配になってくるなぁ……。
「それにしても、敵の大幹部様ともあろう人が、随分とあっさり鞍替えしたものねぇ……」
若干……というか、かなりの胡散臭さしか感じないといった態度で、お姉ちゃんがガマスターに疑惑の目を向ける。
「フッ、疑われるのも無理はない。しかし、我は元々は人間であり、究極の死霊魔法の研究を成すために自ら不死者となって、たまたま邪神様の軍勢に参加していただけの事……」
そ、そうだったのか……。
「そして今は、自らの望みのために、こうして召喚に応じているのだ。なんせ、ロロッサ嬢の命尽きるまで彼女をお守りした際には、我も冥界神様直属の配下として雇用していただける事になっておるからな」
「ふぅん……そういった事情なら、裏切る心配は無さそうね」
「フハハハ、当然である!変に裏切れば、また……あの……いやぁ……」
再び、半泣きになってガマスターは震えだす。
そんな死霊王の頭を撫でて落ち着かせながら、ロロッサさんはドヤ!っとした顔を僕達に向けてきた。
「……先程の足手まといという言葉は、訂正いたしますの。申し訳ありませんの」
「い、いやいやいや!シェロン氏の心配ももっともだったし、頭を上げてほしいッス!」
素直に頭を下げたシェロンちゃんに対して、ちょっと得意になっていたロロッサさんかは、たちまちオロオロしも困惑しだしている。
ううん……どっちが歳上なんだか、わからなくなってくるなぁ。
「なんにしても、魔王四天王の一人を相手にするのに、同等の味方ができたのは嬉しい誤算だったね」
「はい。これなら、絶対に勝てますね!」
「ウチも、お役に立てて嬉しいッスよ!」
盛り上がる僕達を、お姉ちゃんが「油断は禁物」と嗜めるけど、その表情は明るい。
「それでは皆さん、獣人族の王城に潜り込むとしますの!」
促すようなシェロンちゃんの言葉に、僕達は「応!」と意気揚々に答え、大きく腕を振り上げていた。




