01 イチャイチャしすぎじゃないかしらぁ?
──勇者一行と別れた僕達は、ひとまずドワーフの王様の元へと案内された。
彼等の王は、髭が素晴らしいほど凄いとされいて、そのためなのだろう、髭の塊なんだかドワーフなんだか、よくわからない毛玉が玉座に座っていた。
そんな王様からお礼を言われ、尚且つ「君達はいつでもドワーフの国に来てもいいし、武具を安く売ってあげる」との特例までいただいてしまった。
もっとも、僕達は各々の装備が特殊過ぎて、あんまり普通の武具は使わないんだけど。
でも、珍しい素材を手に入れたらお世話になろうかな。
まぁ、本来ならエルビオさん達に対する、褒美の意味が大きかったんだろう。
ドワーフの王様も、彼等に会えなかった事をがっかりしてたしね。
そんな感じで、思いがけぬ獣人族との戦闘があったものの、ドワーフの国での用事は無事に済んだ。
だけど、もうひとつ特筆しておく事がある。
僕達は、この国である人と別れる事になったのだ。
その人とは……ターミヤさんである。
◆
『悪いが、俺はこの国に残る』
突然、そう言い放ったターミヤさんに、僕達も当然「なんで?」と問い返した。
そして返ってきた答えが、『獣人族に抜刀術を広める』なんて話だった。
『ディセルに教えていて気付いたんだが、獣人族の身体能力は抜刀術を身に付けるのに向いてる。だから、手始めに捕虜にした連中を門弟にして、獣人族の間に抜刀術を根付かせたいんだ』
ターミヤさんの生前の願い、『抜刀術』と『ニホントウ』の復興をここで果たしたいと語った。
彼の無念を晴らす事自体は、賛成したい。
だけど、僕達と敵対している獣人族を強化するような行為に賛同していいものだろうか……。
僕達の心配を察したのか、ターミヤさんは笑いながら『その辺なら大丈夫!』と胸を張った。
『ちゃんと、調教はしておくぜ!』
そう、自信満々に言い放つ。
後でドワーフ達から聞いた話では、ターミヤさんが獣人族の捕虜達にこの話をした時、反抗した連中の頭頂部の毛だけを一瞬で切り裂いて、力の差を見せつける格付けを済ませていたそうだ。
おそらく、修業の過程で獣人族の門弟達は、ターミヤさんに絶対頭が上がらなくなる事だろうとも言っていた。
『グアナックのとっつぁんも乗り気だし、これも運命ってやつだろう』
「それじゃあ……ウチともお別れッスか?」
『……そうなるな。お嬢との契約、半端な感じで遂行できなくなるのは、ちと心苦しいが』
ここに残るという事は、召喚主であるロロッサさんを守るという契約を守れないという事だ。
けど、ターミヤさんが抱えていた、生前からの願いの重さを知っているだけに、彼女も笑顔で大きく頷いた。
「今のウチには、『レギーナ・レグルス』の仲間達がいるッス!それに、ウチ自身も少しは成長してるんスから、心配ご無用ッスよ!」
努めて明るく話すロロッサさんの頭を、ターミヤさんは優しく撫でる。
『ありがとうな、お嬢』
「こちらこそ、今までありがとうございましたッス!」
お互いに笑みを浮かべて、握手を交わすロロッサさんとターミヤさん。
そんなターミヤさんに、弟子であるディセルさんも声をかける。
「先生、兄上達や獣人族の事をよろしくお願いします」
『おお。これから獣人族に抜刀術を教えはするが、俺の後継者はお前だと思っているからな!』
「ありがたいお言葉です。今後も精進していきますので、ご安心を 」
『ああ、頼んだぞ』
そうして、師弟の二人も固い握手を交わした。
──こうして僕達はターミヤさんをドワーフの国に残し、本拠地であるバートの街へと帰還したのだった。
◆
「ふう……」
小さく息を吐き出し、僕は手を止めた。
「……あの、ディセルさん?」
「なんだい?」
ギルドに提出するレポートを書いていた僕は、体をぴったりとくっつけているディセルさんに声をかける。
「その……そろそろ、離れてもらってもいいんじゃないでしょうか?」
「嫌だが?」
それがさも当然のように、身も蓋もなく僕の言葉を却下すると、ますますディセルさんは密着してきた。
ドワーフの国を出る頃から、ずっと彼女はこんな調子だった。
それというのも、あの一件……『エルビオさんに、キスされてしまった事件』に端を発しているのは間違いない。
どちらかと言えば、僕も被害者だと思うんだけど、ディセルさんは所有権を主張するように、修行の時とトイレの時以外は僕の側を離れようとしなかった。
……たぶん、ターミヤさんとの別れのせいもあるんだろうな。
その時は割りとあっさりしてても、後から効いてきた感じで。
ふぅ……だけど、そんな彼女を安心させるのも、僕の役目だよね!
報告書は後回しにして……ペンを置いた僕は、ディセルさんに真正面から向き合った。
「……ディセルさん。そんなに心配しなくても、ボクはずっと貴女の側にいますよ」
「アムール……」
キュッと彼女の手を握り、瞳を覗きこむ。
「安心してください、どこにも行きませんから」
「……君の事は信じてる。でも、今の私は言葉だけじゃ不安なんだ」
ほんの少しだけ、寂しげな迷子を思わせる表情を浮かべ、ディセルさんが顔を近付けてきた。
彼女が欲してるもの……それがなんなのかは、鈍い方な僕だけどもハッキリとわかる。
だから、僕がソッとディセルさんの頬に手をあてると、彼女は静かに目を閉じた。
後は言葉はいらない。
想いを伝えるつもりで、僕はディセルさんの唇へ、自分の唇を重ねた。
チュッ……と、小さな音が耳に届く。
それは何度も何度もくりかえされ、やがて少しづつ深く、湿り気を帯びながら大きく響いていった。
「んっ……あむっ……はっ、んん……アムー……んっ」
「はあっ……ディセルさ……んんっ、ふっ……」
今までのキスよりずっと深く交わり、舌を絡め、互いの口内を愛撫しながら、唾液の交換する。
それは、溶け合ってしまいそうなくらいに気持ちのいい……至福の時間だった。
どれくらいの間、そうしていたのだろう……長く深いキスが終わり、口元から濡れる糸を引きながら唇が離れていく。
蕩けてしまいそうな思考をなんとか保ち、ディセルさんを見つめる。
そして、同じく僕を見つめていた彼女と微笑みあった。
「ディセルさん……♥」
「アムール……♥」
どちらからともなく腕を伸ばし、愛しいパートナーの存在を確かめるために、固く抱き締め合う。
ディセルさんの柔らかさと温かさ、そして鼓動の音が届いてきて、なんだかこのまま眠ってしまいそうなほどに心地いい。
「好き……」
「ボクも好きです……」
想いを言葉にして伝え、頬を擦り合わせる。
「大好きですよ、ディセルさん……」
「ん……私も、君が大好きだよ……」
彼女の不安と心の隙間を埋められるよう、僕は何度も「好き」を伝え、ディセルさんもそれに答えてくれた。
さっきまで、ずっとくっついていられて少し困っていたのに、今は少しでも離れるのが嫌になっている。
我ながら、なんともワガママな話だと思うけど、ディセルさんも同じ気持ちでいるのが伝わってきて、僕達は子犬がじゃれ合うように、ソファに寝転んだ。
「──まだ昼間だっていうのに、イチャイチャしすぎじゃないかしらぁ?」
不意に声をかけられ、ビクリと体が跳ね上がった!
声の方に目を向けると、いつからそこに居たのか、お姉ちゃん達が呆れた顔でドアの所から僕達を見ているではないか!
「なっ!ノ、ノックくらいしてよ!」
「したわよぉ。あーちゃん達が、気づいてくれなかっただけでね」
そ、そうなの……?
「い、いつかそこに……?」
「そりゃ、あーちゃんとディセルちゃんが、チュッチュ、チュッチュしてる辺りからよぉ」
うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!
は、恥ずかしいっ!
しかも、身内にそんな所を見られちゃうなんてえぇぇっ!
僕は、真っ赤になりながら離れようとしたしたけれど、その体をディセルさんがガッシリと捕まえた!
あ、あの……ディセルさん……?
「私達は、今さら見られて困る仲でもないじゃないか……それよりも、もっと君を感じていたい」
え、ええっ!?
いや、その気持ちは嬉しいけれど、人が見ている前ではちょっと恥ずかしいんですけど……。
「うーん、戻ってくるまでちょっと変だったディセルちゃんが、随分と落ち着いたわねぇ」
「さらに、一皮剥けたイチャつきっぷり……さすがッスね、アムール氏」
「あ、あの、ディセルお姉さまが……」
ニヤニヤするお姉ちゃんとロロッサさんに比べ、僕達についてきたシェロンちゃんだけ愕然とした様子で僕達を見ていた。
「お、お姉さま!王国にいた頃の凛々しいお姿は、どこに行ってしまいましたの!?」
「ごめんね、シェロン。だけど、自分でもどうにもならない……これが、心奪われるという事なんだろうね……」
そう言うと、ディセルさんはまた僕に頬擦りしてきた。
あ、あの、気持ちは嬉しいんですけど、いまそんな事をした、シェロンちゃんを煽るような形に……。
「ど、毒婦ですの!アムールさまは、とんでもない毒婦ですのっ!」
「ええっ!?」
「お姉さまといい、エルビオさまといい、どれだけたぶらかせば気が済みますのっ!」
「そ、そんな……誤解だよ!ボクが好きなのは、ディセルさんだけだからっ!」
「アムール……♥」
ポッと頬を染めるディセルさんを見て、またシェロンちゃんがぐぬぬ……と苦渋に満ちた顔になる。
「で、ですがお二人とも女性じゃありませんの!いつかアムールさまは、エルビオさまの元に走るのではありませんの!?」
「え?」
シェロンちゃんの言葉に、思わず声が出た。
ああ、そうか……彼女はまだ、僕の正体を知らないんだった。
「安心するッス、シェロン氏。ああ見えて、アムール氏は男の子なんッスよ?」
「はあっ!?」
ロロッサさんに言われ、シェロンちゃんは僕を凝視する。
「……あ、あり得ませんの!アムールさまが男の子だったら、ある意味で女子に対する冒涜ですの!」
そ、そこまで言わなくても……。
しかし、僕本人やお姉ちゃん、揚げ句ディセルさんからも僕が男の子だと告げたのだけど、シェロンちゃんは頑なに信じようとしなかった。
うーん、いったいどうした物か……。
「百聞は一見にしかず、か」
そう呟き、ディセルさんは僕にゴメンねと小さく謝罪する。
いったい、なんの事かな?と不思議に思っていると、突然、僕のスカートが捲りあげられた!
「ディ、ディセルさん!?」
「お姉さま、なにを!?」
僕とシェロンちゃんが戸惑う声も聞かず、ディセルさんは迷う事なく、僕の下着をずり下ろした!
「なっ!?」
「えっ!?」
驚愕、そして沈黙!
シェロンちゃんの視線が、僕の股間に釘付けになっている!
「ひ、ひゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「い、いやあぁぁぁぁぁぁっ!」
数秒後、僕とシェロンちゃんの悲鳴が、屋敷の中に響き渡っていった!




