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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第四章 ドワーフ国に迫る脅威
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07 長生きはしてみるもんだな

           ◆◆◆


「っ!?」

 突如、背中を駆け抜ける悪寒と、額から稲妻が走るような感覚に襲われて、私は後方へ振り向いた!

『どうした、ディセル?』

「いえ……今、アムールに良からぬ事があったような気が……」

 私がそう答えると、ターミヤ先生は『んもー!』といった感じでため息を吐いた。


『お前さん、ちょっと過保護……というか、神経質になってるんじゃないのか?』

 うーん、それは我ながら思うところがある。

 というか、アムールのそばにいるのがエルビオ殿でなければ、ここまで心配はしないのだけど。


 そう、アムールに惚れているのが、かの聖剣の勇者だからこそ、心配なのだ。

 なんせ、前回の別れ際に私とアムールの熱烈でラブラブなキスを見せつけたにも関わらず、心折れなかった御仁である。

 普通ならば、入る隙間など無いとわからせられただろうが、あの不屈の精神で迫られたら、優しい上にちょっと引け目も持っているアムールがどんな目に会うか……。


『まぁ、マーシェリーやロロッサ(お嬢)もいるんだ、二人きりにでもならない限り、滅多な事は無いだろうぜ』

「それは……そうなんですが……」

 何となくだが、胸のつかえか取れないような、モヤモヤしたものを感じる。

『第一、アムールはその……アレだろ?向こうがその気でも、変な真似はさせんだろ』

 確かに、見た目は美少女でもアムールは立派に男の子だ。

 だからこそ、何かあったら彼の心理的な衝撃は大きいのでは……と、心配になる。


「おい、ついたぞ」

 そんな不安を抱える私達に、先導していたドワーフの戦士長が声をかけてきた。

 王都の端にある彼等の工房、そしてターミヤ先生の知人がいるというそこには、数人の職人らしきドワーフ達が忙しそうに動き回っていた。


「まず、俺が話をしてくるから、お前達はここで待ってろ」

 部下と私達にそういうと、戦士長はスタスタと工房の奥へ歩いていく。

 それで、来客に気づいたのか、何人かのドワーフが私はを見てギョッとした顔を見せていた。

 兵士達に囲まれていたからか、騒ぎにこそならなかったが、好奇の目に晒されながら十分ほど時間が流れる。

 やがて、戦士長が戻ってくると、面会の許可が降りたことを告げてきた。


「とりあえず、骸骨と獣人の娘だけついてこい」

 エルビオ殿の保証もあったか、ある程度の信頼は得たようだけど、やはりどこか警戒しているようだなぁ……。

 そんな事を思いながら、戦士長の後をついていくと、工房の一番奥にある、離れの家へと到着した。

 はて、ここら何かの製作部署では無さそうだが?

 そんな疑問を感じていると、戦士長の口から思わぬ言葉が出てきた。


「お前達が尋ねてきたグアナック様は、現在は老齢のために第一線は引いておられる」

「えっ!?」

『ああ、結構な歳だろうしな、とっつぁんも』

 驚く私とは違い、どうやら先生はそれも想定内だったようだ。

 まぁ、考えてみれば、先生が亡くなってから二百年以上が経ってるんだから、当たり前といえば当たり前か。

 そうこうしている内に、戦士長はその家のドワーフに声をかけ、グアナック氏の部屋まで案内してもらう事になった。

 通された家の、一番奥の部屋をノックすると、中から入れと重い声が伝わってくる。


 ドアを開け、室内に入った私達の目の前に、机の上で何やら手作業をしていた小さな背中が視界に入った。

 しばしの間、カチャカチャと作業していた部屋の主は、一段落したのか工具を机に置くと、ようやくこちらを振りかえる。

 老齢のためか、他のドワーフよりも一回り小さい体に、白くなった髭。

 しかしその眼光は鋭く、まるで一流の戦士のような目付きで私達を見ている。

 この方が、グアナック氏か……。


「おめぇが、ターミヤの坊主を名乗るスケルトンか」

『坊主って……相変わらずだな、とっつぁんは』

 苦笑する先生と、私の腰に下げてある『真刀・国士無双』を交互に睨み付けたグアナック氏は、厳しかった表情を崩すと、ニヤリと笑みを浮かべた。


「クックックッ……まさか、死んだはずの古い知り合いが、アンデッドになって尋ねてくるたぁ、長生きはしてみるもんだな」

 私達を認めたグアナック氏の様子に、戦士長もわずかに驚いた表情を見せていた。

 やっぱり、まだ少し疑われていたんだな。


 何はともあれ、私達が危険な存在ではないと証明されたようで、グアナック氏の身の回りの世話をしているドワーフが椅子を用意してくれた。

 そうして落ち着いた私達に、グアナック氏は「それで、何しにきたんだ」と、単刀直入に尋ねてくる。


『まぁ、簡単に言えば『ニホントウ』の普及に向けて、とっつぁんの手を借りたいのさ』

「あぁん?」

 ターミヤ先生の言葉に、グアナック氏もすっとんきょうな声をあげる。

「いっぺん死んで、忘れちまったのか?『ニホントウ』も『抜刀術』も、おめぇの代で廃れちまったろうが」

『確かに、な。だが、このディセルって弟子をとった事で、道が開けてきたんだ』

「ほう……」

 先生の言葉に、氏は私を値踏みするように見つめてきた。


『確かに、まだ具体的な絵が描けてる訳じゃねぇさ。だが、その時には、とっつぁんの協力が必要だから、今のうちに頼みにきたんだよ』

「ふん……いうても、俺も歳だからな。おめぇの絵図とやらが現実味を帯びる前に、くたばるほうが早ぇかもしれんぞ?」

『そんなに年数はかからんさ。そうだな……勇者殿が、魔族との戦いに決着をつけたら、かな?』

 うん?

 確かに、それなら何十年もかからないとは思うけれど、先生はいったいどんな計画を立てているのか……?

 まだ構想段階という事で、先生は『その時が来たら、ディセルも協力してね☆』としか言わず、私にも詳しい話をしてくれていない。

 もちろん、協力するのやぶさかではないけれど、できれば早めに教えてほしいな……アムールとの時間を確保できるように。


『で、どうだい、とっつぁん。手を貸してもらえんだろうか?』

「おめぇは相変わらずだな……」

 行き当たりばったりとも思える先生の言動に、グアナック氏もハァ……とため息を吐いて腕組みをする。

 しかし、その表情には楽しそうな笑みが浮かんでいた。


「廃れた技術の復旧とか、面白そうじゃねぇか!どうせ引退してた身よ、俺にも一枚咬ませやがれ!」

 何やら、小さかった体が一回り大きくなったような気がするほど、グアナック氏に活力が満ちてくる。

 これが一流の職人というものか……。

『さすがとっつぁん!そう来なくっちゃ!』

 そうして意気投合した二人は、軽く打ち合わせをした後に、思出話に華を咲かせていった。

 それ自体は興味深い話ではあったが、すっかり私と戦士長はおいてけぼりである。


 だが、しばらくは聞き役に徹するか……なんて事を考えていると、突然に外が騒がしくなってきた。


 何事かなとそちらに注意を向けていると、ドワーフの兵士の一人が、慌てた様子で部屋に駆け込んでくる!

「し、失礼します!」

 息を切らして走ってきた兵士は、すこしだけ呼吸を整えると上司に向かって報告をした。


「さ、先程、この辺りをうろついていた、獣人族のスパイらしき者を捕らえました!」

「なんだとっ!」

 その報告に、戦士長だけでなく私達も思わず顔を見上げた!

「それで、そいつはどうしたんだ!」

「はっ!とりあえず捕縛はしてあるのですが、まだ子供のようで……なにより、「自分は獣人族の襲撃がある事を伝えにきた」などと申していまして……」

「なんだ、それは……?」

 その報告に、戦士長も困惑しているようだった。

 確かに、敵対している相手とはいえ、子供が……しかも、ドワーフ側に利する情報を持ってきたなんて言われたら、戸惑うのも無理はない。


「こちらを撹乱させようと……いや、それにしては意味が……」

 戦士長もブツブツと呟きながら、相手の意図を図ろうとしているが、結局のところは直接に尋問してみなければわからない。

 とりあえず、その捕虜に会ってみようと判断したらしい彼に、私も連れていってもらえないだろうかと申し出た。


「何を……」

「同じ獣人族なら、真意を聞き出せるかもしれないでしょう?」

 なにより、子供というのが気になる。

 獣人族は幼少の頃から戦いに参加することはあるが、そんな子供をこんな捨て石にするような真似はしないはずだ。

「むぅ……だが」

『戦士長さんよ、ディセルは獣人族のお偉いさんの娘でな。案外、相手もすんなり口を割るかもしれんぜ?』

 さすがに、私が王族であることは濁しながら、先生が援護の横槍をいれてくれた。

 それが決め手となり、不承不承ながらも同行を許可される。

 くれぐれも、怪しい真似はするなよと注意されながら、私は彼等と共に捕虜の元へと向かった。


            ◆


 ──工房の入り口辺りに、ドワーフ達の人垣ができている。

 さらに、大きな声で喚くような子供の声がする事から、捕まった獣人の子供がいるのはあそこで間違い無いだろう。

「道を開けろ!」

 戦士長の一喝で、野次馬に集まっていたドワーフ達が左右に分かれていく。

 そうして開けた人垣の先に、縛られている獣人の少女の姿があった。


「ですから、ワタクシはスパイなどではありませんの!襲撃の情報を、教えに来たんですのぉ!」

 金の髪に狐の耳と尻尾、本来な強気そうなつり目気味の瞳に涙をいっぱいにためて訴えるあの子は……。


「シェロン……シェロンじゃないですか!」

「!?」

 驚く私の声に反応した彼女が、こちらに顔を向ける!

「ディ……ディセル、おねえしゃまぁぁぁっ!」

 私の名を呼び、クシャクシャに顔を歪ませて、ボロボロと大泣きだした少女。


 間違いない……。

 捕まって号泣しているその子は、私の異母妹であり、獣人族の第二王女、シェロン・デュオヘイムであった。

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